フィジカルAI時代の新・経営戦略 ―― HMAXで描く未来社会

【前編】フィジカルAIが変える社会インフラ

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2026年10月21日

日立は2026年9月3~4日の2日間にわたって日立グループ最大規模のイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」を開催した。ビジネスセッション「フィジカルAI時代の新・経営戦略」では、元マイクロソフト米国本社チーフアーキテクト、伝説のエンジニアと呼ばれる中島聡氏をゲストに招き、話題の著書『2034 未来予測――AI(きみ)のいる明日』に示された未来予測を題材に、AIによって仕事や人の役割が問い直される未来社会を展望した。その模様を前後編に分けてお届けする。前編では、物理世界に進出するAIをテーマに、日立製作所 執行役常務の今井泰樹が「HMAX™ by Hitachi*」や、AIを活用した熟練技能の継承について語る。
 

* HMAX™ by Hitachi:AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群

フィジカルAIによる産業機器の自律制御をめざす

野嶋
今回のセッションが実現したのは、中島聡さんのご著書『2034 未来予測――AI(きみ)のいる明日』がきっかけだったそうですね。

今井
はい。2034年の未来を描いた5つの短編小説と、その後に中島さんの鋭い考察が書かれた本で、リアリティがあって、あっという間に読み終えてしまうぐらい楽しめました。と同時に、2034年の未来からバックキャストし、そこに向けて今から準備しなければならないと深く考えさせられる内容でもあり、ぜひ中島さんとお話ししたいと思ったのです。中島さんにお会いできることを楽しみにしていました。今日はよろしくお願いいたします。

中島
ありがとうございます。SF小説の形でいろいろな未来の社会を描きましたが、それらの是非を問うというよりは、皆さんが考える材料を提供したかったんです。あと10年もしないうちに、AIによって仕事を失い、生きがいも失う社会が来るかもしれない。その問題をどう解決していくのか、皆で考えなければならないと思っています。

 

野嶋 
一家に一台の人型ロボットがある未来を描いたストーリーもありましたね。それに関連して言うとフィジカルAIの潜在市場は40兆ドルとも試算されていますが、本当にそれほど大きくなるのでしょうか。

画像2 ソフトウェアエンジニア/起業家/投資家/テクノロジーエッセイスト/一般社団法人シンギュラリティ・ ソサエティ代表理事 中島 聡氏

中島
なると思いますよ。小型自動車くらいの値段で家庭用ロボットが買えるなら、私は絶対に買います。庭の木を切るとか、落ち葉を片付けるとか、妻から頼まれる仕事は全部任せてしまえばいいので。ニーズはとんでもなく大きいと思います。

野嶋
中島さんの著書にもあったように、AIが現実の社会へ入り込んでいく中で、日立はどんなビジョンを掲げているのでしょうか。

 

今井
2026年は「フィジカルAI元年」と位置づけられています。AIはITの世界を変えただけでなく現実世界にも広がりつつあり、産業革命に匹敵する変化が起きています。

 

フィジカルAIというとヒューマノイドが中心になると思われがちですが、産業機器なども含めた物理世界の機器が制御の対象です。その制御のポイントは、「自動」ではなく「自律」、つまりAIが周囲の状況を把握し、みずから考え、判断し、最適なアクションを実行することです。この自律的に判断・実行する力を、私たちは電力、鉄道、産業分野などの社会インフラへ適用し始めています。

画像3 MC・プロデューサー ( PIVOTなど ) / J - WAVEニュース情報番組「JAM THE PLANET 」パーソナリティ / 慶應義塾大学KGRI研究員 野嶋 紗己子 氏
 画像4 日立製作所 執行役常務 デジタルシステム& サービスセクター デジタルサービスビジネスユニット 事業統括 (金融/産業システム&サービス事業担当)今井 泰樹

その基盤になるのが「HMAX™ by Hitachi」です。日立は1910年の創業以来、国内外へ社会インフラを支えるプロダクトを提供してきました。HMAXは、それら現場のプロダクトからデータを集めてAIと組み合わせ、Sense(検出)→Store(蓄積)→Think(判断)→Act(実行)の循環を回して価値を創造するソリューション群です。


この循環を回す上で重要になるのが、フィジカルの状態を情報として整合性を取りながら一致に近づける「情物一致」の取り組みです。ここ最近、エッジサーバーやセンサーの性能向上、AIの進化などの条件が揃い、情物一致のレベルが高まったことから、ミッションクリティカルなシステムにも適用して価値を生み出すことが可能になりました。

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HMAXは、鉄道の領域からスタートしました。英国では、鉄道車両やインフラに多数のセンサーとカメラを取り付け、集めたデータを車上のエッジサーバーで解析、車両やインフラの状態をモニタリングすることにより、さまざまな価値を生み出しています。例えば、車軸の回転を支える重要部品のベアリングは、従来、2年ごとにすべて新品に交換していました。ところがデータ解析で個別状態を把握した結果、本当に交換が必要なのは年間に数個だけだと判明したのです。それ以外の大多数は交換時期を4年に延ばすことができ、安全を保ったままコストを削減することができました。このような価値創造を、エネルギーや産業分野にも広げています。

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中島
日本は少子高齢化で地方の人口減少が進み、ローカル線が廃止になるなど課題がありますよね。乗る人が減っているので、4時間に1本など運用回数を減らしているわけですが、運行車両は4両編成なんです。電気代だけで言えば、1両編成の車両を1時間に1本走らせることができる。運転手のコストはかかりますが、自動運転にすれば解決します。車両さえ変えれば、地方を救えると常々考えているんですよね。

今井
そうですね。「発想の転換」ということだと思います。データとAIを活用し、従来からの考え方、やり方を見直すことで、コストを抑えながら利便性を上げられる余地は、さまざまな分野にあります。技術の進歩によってできることが増えている中で、発想力を持つエンジニアが、お客さまと一緒に価値を生み出していかなければならないとあらためて思いました。

AIを活用し熟練技能の伝承を可能に

野嶋
現場ではフィジカルAIを導入すると、熟練者の知見を活用できなくなるのでは、という声も聞かれます。日立はそれをどう解決しているのでしょうか。

今井
ダイキン工業様との取り組みでは、マニュアルや過去の事例だけでなく、未知の問題に直面した熟練技術者が、どのような考え方で原因を探り、解決へ導くのかをAIに学ばせました。これがうまくいきまして、90%以上の精度で原因と対策を推定して適切なガイダンスを出せるようになりました。このAIを利用することで、経験の浅いエンジニアが、熟練技術者と一緒になって原因を追求しているかのような経験を通じて技能を継承できるようになります。いわば「熟練者の脳の横展開」と呼べる仕組みで、現在、三菱ケミカル様の化学プラントの現場にも展開しています。こういった技術を踏襲して社会インフラを守っていきたいと思っています。

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中島
これはすごい。これまでやってきた作業をAI化することも大切ですが、「今までできなかったことができるようになる」というのは大きな価値です。匠の技は、テキストや動画だけでは伝えきれません。その人と一緒に働き、手取り足取り教わりながら、実際にやってみて、怒られながら改善していく。そんなプロセスが必要でした。それが、間にニューラルネットワークを置くことで、同じ時間、同じ場所にいなくても伝承できる可能性がある。

 

料理、農業など応用分野はたくさんありますよね。熟練者の暗黙知と呼ばれるような繊細なノウハウがAIを使って伝承できる可能性が出てきたのは、ある意味、社会革命ですよね。涙が出るほどすごい話ですよ。

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野嶋
ここまでご説明いただいたHMAXのような仕組みを、今後どのような領域に広げていきたいとお考えですか。

今井
やはり人手不足が社会問題化している製造業が中心になります。日立自身もグループ内の工場を実験場とする「カスタマーゼロ」として常に課題解決に取り組んでいます。米国のヘイガーズタウンに建設した鉄道車両の新工場では、製造、テスト、品質検査、セキュリティ、搬送などにフィジカルAI、自律型の産業ロボットなどを導入し、現場の自律化を進めています。

 

その先には、AIが判断、実行、学習するというループを回し、工場内の全行程をつなぎ自律的に動かす「考える工場」の実現を見据えています。ポイントとなるのは「知識基盤」。日立の中の工場でもこれまで継承してきた多くの暗黙知や経験知などのノウハウがあるんですね。これらを、みずからの強みにつながるデータとして大切にするとともに、循環、継承して工場全体を進化させていきたいと考えています。

中島
AIの技術はもちろん必要ですが、最後はデータの勝負ですよね。米国のテック企業には優秀なAIの専門家はいても現場のデータがありませんから、データを持つ企業に頼んで提供してもらい、学習するしかありません。ただ、データを持っていても価値を理解していなかったり、うまく使えなかったりする企業もあります。日立には鉄道、工場、電力網などで、失敗例も含めて蓄積したデータがある。それを学習に使ったAIには大きな優位性があるんじゃないですか。

野嶋
そうした現場データを持つ企業が日立と組みたいと思う背景には、「信頼」があるのではないでしょうか。

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今井
日立がお客さまから評価いただいているポイントの一つに「最後まで逃げない」ということが挙げられます。私たちには、社会インフラを長年支えてきた「責任感」と「使命感」があり、一度お客さまからいただいた仕事は最後までやり切るという文化が根づいています。それが信頼につながっているんだと思います。

■Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPANアーカイブ配信中

こちらのセッションが今だけ期間限定でご視聴いただけます。(無料)

ご視聴はこちらから

  *登録済みの方は、ログイン後アーカイブページからご視聴いただけます。

  *未登録の方は、「無料参加申し込み」よりご登録の上ご視聴ください。

期間:2026年10月30日(金)迄

本セッション以外も聴講可能ですので、ぜひご覧ください。

セッション一覧|Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN


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中島 聡 氏 
ソフトウェアエンジニア / 起業家 / 投資家 / テクノロジーエッセイスト / 一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ代表理事

早稲田大学大学院理工学研究科修了、ワシントン大学MBA取得。元MicrosoftエンジニアとしてWindows 95/98等の開発に携わる。2000年にUIEvolution(現Xevo)を創業し、車載機向けソフトウェア企業へ成長。2019年に3億2,000万ドルで売却。2018年には夏野剛氏とシンギュラリティ・ソサエティを設立。メルマガ「Life is Beautiful」では、テクノロジー、経営、AI、社会変化について発信。現在はシアトルを拠点に、GraphAIやMulmoCastを通じ、AI時代のコンテンツ制作、マルチモーダル表現、AIネイティブなユーザーインターフェースの研究・開発に取り組む。


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今井 泰樹 
日立製作所 執行役常務 デジタルシステム& サービスセクター デジタルサービスビジネスユニット 事業統括(金融/産業システム&サービス事業担当)

2001年入社。金融ビジネスユニットでSEとしてキャリアを重ねた後、中国や米国で新規グローバル事業の開発に注力する。

中でも、米国・GlobalLogicの買収ディールでは現地側リーダーとして推進。帰国後には、OT事業領域をコアとする日立産業制御ソリューションズ社長、クラウドサービスプラットフォームBUのCOOを歴任するなど、「IT×OT×プロダクト」の各事業領域を経験。24年10月より日立製作所執行役常務に就任し、金融ビジネスユニットを率いる。現在はデジタルサービスビジネスユニット事業統括の立場で、金融・産業領域の事業をリード。


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野嶋 紗己子 氏

MC・プロデューサー(PIVOTなど) / J-WAVEニュース 情報番組「JAM THE PLANET」パーソナリティ/ 慶應義塾大学KGRI研究員

2019年 慶應義塾大学(専攻:独占禁止法)を卒業後、MBS(株式会社毎日放送)にアナウンサーとして入社。報道・情報番組のサブキャスターやラジオパーソナリティなどを担当。2024年1月より独立し、MC・モデレーターとして活動を開始。ビジネスメディア「PIVOT」ではプロデューサーを兼務し、経済・テクノロジー(AI・量子コンピュータ)・金融など幅広いテーマで年間250本以上の対談やイベントに携わり、政治家、研究者、投資家、企業リーダーと議論を重ねている。そのほかラジオのニュース番組、経済フォーラムや企業カンファレンスでの司会、英語でのモデレーションなど多数登壇。


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