フィジカルAI時代の新・経営戦略 ―― HMAXで描く未来社会

【後編】AIで変わる仕事と人間の役割

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2026年10月21日

元マイクロソフト米国本社チーフアーキテクトの中島聡氏をゲストに招いたビジネスセッション「フィジカルAI時代の新・経営戦略」。その模様をお届けする後編では、AIによる仕事の代替をテーマに、求められるエンジニア像の変化、人間に残される重要な仕事について語り合う。

FDE(Forward Deployed Engineer)という新たなエンジニア像

野嶋
中島さんの著書では「人々の仕事の8割がAIに置き換わる」というセンセーショナルな未来が描かれています。SI事業を手がけている日立の仕事はどう変わるのでしょうか。

今井
SI事業がAIで代替されてしまう。これは大きな脅威だよね、という見方がありますが、私たちは逆に大きなチャンスと捉えています。

 

AIによる生産性の向上はめざましく、エンタープライズ向けSIの全工程にAIを適用する「Agentic AI Integration Platform」を用いた社内の試行開発では、設計からテストまでの生産性を従来比で約200倍に高められることが実証できました。開発生産性はこれから間違いなく上がっていくでしょう。

一方で、日立が携わっている社会インフラのミッションクリティカルなシステムでは、安全性と信頼性、品質確保が不可欠です。そのため、この領域におけるナレッジを生かし、AIネイティブ開発における品質の確立に取り組んでいます。

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高い品質を保ちながら開発期間を短縮できれば、これまで3年かかっていたものが1年でできるように、さらに1年が半年というように、短いスパンでどんどん新しい機能をリリースすることができる。ビジネスサイクルが速く回り、価値創造の機会を増やすことにつながると考えています。

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中島
「AIにコードを書かせながら品質を保つ」これが私の今のライフテーマです。AIに生成させたコードは、見た目はよくても、品質やセキュリティなどに欠陥があったりします。それを修正できるのはテクノロジーに精通したエンジニアだけなのですが、経験の浅いエンジニアの指示でも品質が高いソフトウェアをつくれるようにすることが一番の私のテーマで、今毎日のようにバリバリ開発しています。「mulmoterminal」というOSSで、AIに直接コードを書かせず、権限やデータ構造をJSON形式のDSL(Domain Specific Language)で記述させます。AIが生成したDSLの定義を読めば、その場で信頼性を検証できるというものです。この「mulmoterminal」の取り組みは世界に押し出したいと思っています。日立でも使っていただけると嬉しいです。

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今井 
ぜひ。一緒にAIネイティブ開発の品質向上に取り組みたいですね。

中島

そうですね。今の世の中本当にすごいスピードで新しいことがどんどん生まれていて、私にとってはもう楽しくてしょうがないんですよね。私は40年以上コードを書いてきましたが、ここ最近は自分で書いていないんです。全部AIに任せ、最近はコードそのものも見なくなりました。今までバイオリン奏者だったのが指揮者になったようなもので、生産性は爆上がりです。AIに指示し、動かし、テストし、駄目なら捨ててやり直す。人だったら一生懸命書いたコードを捨てられたら泣いちゃうじゃないですか。でも、AIは何度やり直しを指示してもめげませんから。

野嶋
そうなると、エンジニアの仕事も変わっていくのでしょうか。

今井

はい。業務システムなども、業務フローからお客さまと一緒に見直せば、人間は最初と最後だけ確認して途中をAIに任せるという設計にすることができます。つまり、人が操作する前提のシステムとは大きく異なるものになるわけです。このようにドラスティックな変化が起きているシステム開発においては、ゴールが曖昧で見えにくくなります。そこで、まずはお客さまの現場を深く知り、「お客さまにとっての価値は何か」を見つけ出すこと、そして、AIなどを活用して実装、運用、継続改善までを一気通貫で提供することが重要です。

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そうした役割を担う人財を、最近ではFDE(Forward Deployed Engineer)と呼びますが、日立はその言葉が注目される以前から同様の取り組みを行ってきました。日立のFDEチームの強みは、ITだけでなく製造業の現場に通じ、フィジカル世界のドメインナレッジを持つことです。

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その活動の一例が2021年から始まった積水化学工業様との価値創造の取り組みです。材料データとAIを活用するマテリアルズインフォマティクスにより、材料特性の予測精度を高め、フィルム材料の設計では5か月かかっていた作業を4時間に短縮、約900倍の高速化を実現するなど、高機能材料の開発期間の短縮を実現してきました。動画にまとめましたので、ご覧ください。

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この事例のように、「ちょっと面白いことあるんですけど」と、お客さまとの深い信頼関係のもと、お客さまと一緒になって失敗も覚悟で新たな価値創造にチャレンジする。これが私たちがめざすべきFDEの姿だと思っています。

中島

素材開発もまさにフィジカルAIの領域ですね。結果を採点できる問題であればみずから学んで賢くなるのがAIの特性ですから、簡単ではないと思いますが探索の手順を組んでしまえば、あとはAIが自律的に学習、実行するというループができるでしょう。これまで手間や時間のかかっていた工程がAIで素早くできるようになることには、非常に大きな価値がありますよね。

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「何が大事か」を示すことが人間の役割に

野嶋
FDEのご説明がありましたが、仕事の中身が変わると、エンジニアに求められるものも変わりますね。

中島
さきほど実際に手を動かす作業は減っていると言いました。じゃあ私の仕事として残るのは何かというと、まずデザインプリンシプル、つまり「何が大事か」という価値観をAIに与えることです。

 

エンジニアが仕事を通じて提供するものは、社会に対する価値ですよね。そう考えると、社会がなぜそれを必要としているのか、それがどんな価値を生むのかという部分まで踏み込んで考えることが大切です。上流から流れてくる仕様書どおりに作業するのはAIの仕事になります。「なぜ」の部分を「おもしろがる」こと、それによって新しい価値を生み出すこと、そしてモノが完成して出荷するときの最後の「責任」を負うこと、それらが残り2割の重要な仕事になるでしょうね。

今井
中島さんのおっしゃる通りですね。まさに、FDEとしてエンジニアがめざすべき姿だと思います。受託SI事業はお客さまが要件を決め、失敗が許されない仕事です。一方、正解のない課題に向き合い、試行錯誤しながら価値創造に挑むのがFDEの仕事になります。業務の内容をそうした方向へ転換していくには、組織文化や人事評価の指標も変えなければなりません。

 

そこで今年(2026年)4月、いわば「特区」のような形で新しいスキームや働き方にチャレンジする組織として、FDEを集めたフロントサービス事業統括本部を立ち上げました。その中ではAIのフル活用、データドリブン、そして失敗を恐れないことがルールです。小さなチームですが、そこを震源地として日立全体へ変革の波を広げていきたいと考えています。

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野嶋

では、最後に根源的なテーマでお話を伺いたいと思います。エンジニアに限らない人間全般の役割としては、何が残ると思われますか。

今井

人の仕事は、「いかに価値をつくるか」へシフトすると思います。今後、AIがより進化すると、効率化だけでなく創造的な発想も担うようになっていくかもしれません。そうなると、中島さんがおっしゃったように、HowやWhatではなくWhy、つまり「これがなぜ重要なのか」を示すことが人の役割となるでしょう。中島さんはどのようにお考えですか?

中島

AIに意思があるように見せることはできますが、本当の意味での意志、「こうありたい」とか「これが大事だ」というものをAIは持つことはできません。何を重視し、何をめざすのかは人間が指示する必要があります。何が大事かを最初から知っていて、そこは絶対譲らないようなAIが出てきたら嫌じゃないですか?そんなAIとは付き合いたくないですよね。どんなにAIが進化したとしても、そこは人間の役割であり続けると思いますよ。

 

だからこそ、これからの経営者の仕事は、「これをつくりたい」という熱い意志を持つ人を見つけ出して、抜擢し、責任を与え、失敗を恐れずに任せることだと思います。何度か失敗するうちに成果が出たら、「お、この人はいいな」とさらに予算をつけ、事業が成長していく。そういう形で内部進化ができる企業は魅力的ですよね。

今井
日立は、これまでお話ししてきたように自らを変えていくところと、一方で変えてはいけないところも持っています。それは、創業から続くビジョンやミッションです。日立の創業者、小平浪平は「事業の発展は人にあり」という信念のもと、創業当時に人財教育のために徒弟養成所を設立しました。それが現在の日立工業専修学校(日専校)のルーツとなっています。日専校では脈々とモノづくりの力を受け継いでおり、今年4月からは、次世代の製造現場を担う人財として、熟練の技能とデジタル技術を併せ持つ「デジタル匠」を育成する先進教育システム「Cyber-Physical Lab」を導入しました。AIで仕事が変わっても、人財育成は変えてはならない部分としてしっかり守らなければなりません。企業は人と人がつながる場所でもあります。人の役割が変わっても、日立は人をつなぎ、“生きがい”を生み出せる企業でありたいと思っています。

中島

フィジカルAIの実現には、高専のようにモノづくりを学ぶ場が必要なんですよ。私は常々、日本にはもっとIT系・理工系の人財、それも即戦力となる人財が必要だと訴えています。日立が創業以来「人を育てる」ことを大切にしてきたと聞いて、なんか日立を好きになっちゃったかもしれない(笑)。

 

野嶋

嬉しいお言葉で締めくくれました。皆さまありがとうございました。

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■Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPANアーカイブ配信中

こちらのセッションが今だけ期間限定でご視聴いただけます。(無料)

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  *登録済みの方は、ログイン後アーカイブページからご視聴いただけます。

  *未登録の方は、「無料参加申し込み」よりご登録の上ご視聴ください。

期間:2026年10月30日(金)迄

本セッション以外も聴講可能ですので、ぜひご覧ください。

セッション一覧|Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN


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中島 聡 氏 
ソフトウェアエンジニア / 起業家 / 投資家 / テクノロジーエッセイスト / 一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ代表理事

早稲田大学大学院理工学研究科修了、ワシントン大学MBA取得。元MicrosoftエンジニアとしてWindows 95/98等の開発に携わる。2000年にUIEvolution(現Xevo)を創業し、車載機向けソフトウェア企業へ成長。2019年に3億2,000万ドルで売却。2018年には夏野剛氏とシンギュラリティ・ソサエティを設立。メルマガ「Life is Beautiful」では、テクノロジー、経営、AI、社会変化について発信。現在はシアトルを拠点に、GraphAIやMulmoCastを通じ、AI時代のコンテンツ制作、マルチモーダル表現、AIネイティブなユーザーインターフェースの研究・開発に取り組む。


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今井 泰樹 
日立製作所 執行役常務 デジタルシステム& サービスセクター デジタルサービスビジネスユニット 事業統括(金融/産業システム&サービス事業担当)

2001年入社。金融ビジネスユニットでSEとしてキャリアを重ねた後、中国や米国で新規グローバル事業の開発に注力する。

中でも、米国・GlobalLogicの買収ディールでは現地側リーダーとして推進。帰国後には、OT事業領域をコアとする日立産業制御ソリューションズ社長、クラウドサービスプラットフォームBUのCOOを歴任するなど、「IT×OT×プロダクト」の各事業領域を経験。24年10月より日立製作所執行役常務に就任し、金融ビジネスユニットを率いる。現在はデジタルサービスビジネスユニット事業統括の立場で、金融・産業領域の事業をリード。


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野嶋 紗己子 氏

MC・プロデューサー(PIVOTなど) / J-WAVEニュース 情報番組「JAM THE PLANET」パーソナリティ/ 慶應義塾大学KGRI研究員

2019年 慶應義塾大学(専攻:独占禁止法)を卒業後、MBS(株式会社毎日放送)にアナウンサーとして入社。報道・情報番組のサブキャスターやラジオパーソナリティなどを担当。2024年1月より独立し、MC・モデレーターとして活動を開始。ビジネスメディア「PIVOT」ではプロデューサーを兼務し、経済・テクノロジー(AI・量子コンピュータ)・金融など幅広いテーマで年間250本以上の対談やイベントに携わり、政治家、研究者、投資家、企業リーダーと議論を重ねている。そのほかラジオのニュース番組、経済フォーラムや企業カンファレンスでの司会、英語でのモデレーションなど多数登壇。


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