UR都市機構「健康なまちづくり」協創事例
UR都市機構「健康なまちづくり」協創事例
2026年10月22日
独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)が千葉県八千代市の高津団地で自治体や民間企業と展開した「健康なまちづくり」実証。住民の外出や社会参加を促すこの試みに参画した日立は、スマホアプリやポイント施策のほか、データ分析などを担った。団地という「住まい」の場から健康や暮らしの価値を生み出す、その協創の歩みを振り返る。
全国で約70万戸のUR賃貸住宅を管理し、住宅供給やまちづくりも担う“世界最大の大家”とも称されるUR都市機構。2020年度に同法人の職員による新規事業提案制度で選出された「URコネクトプロジェクト」は、UR賃貸住宅を住民と民間企業がつながるリアルな接点として生かす新規事業だ。生活の場で住民と継続的に接点を持てる強みを生かし、民間企業のサービスやノウハウを組み合わせながら、新たな暮らしの価値やビジネスの創出をめざしている。

従来は断片的な把握にとどまっていた住民のイベント参加や関連行動をデータとして継続的に蓄積し、コミュニティ施策の効果検証に生かすこともこの取り組みの大きな狙いだった。「民間企業との連携で、私たちだけでは用意できない多種多様なサービスをご用意すること。コミュニケーションアプリ『LINE』を使って住民との新たな接点をつくること。そしてデータを活用すること。この3点を軸に進めてきました」と説明するのは、本プロジェクトの構想を立案し、現在はその全体を統括するUR都市機構の松尾 知佳氏だ。
住民との接点づくりを考える上では、コロナ禍を経た生活様式の変化も背景の一つとなった。オンラインでのやり取りが日常化する一方、団地の共用部などリアルな場所の価値も改めて見直されている。
そこで、こうした場にデジタルの接点を重ね、独立行政法人として厳格な管理が求められる個人情報は取得せずに、住民の交流活動を捉えられる仕組みづくりも進めてきた。
URコネクトプロジェクトで検討してきたテーマのうち、UR都市機構が注力領域に選んだのが「ヘルスケア」だ。国や自治体では要介護状態になる前の予防が重視され、同機構にも住民や連携企業から健康に関する高いニーズが寄せられていた。そこでUR都市機構は自ら介護事業そのものを担うのではなく、多数の住民が暮らす団地を、その前段階の健康施策を検証する場として生かせる点に着目。2017年に八千代市と包括連携協定を締結して以降、地域医療福祉拠点化などを含むまちづくりを共同で進めてきたことも下地となった。

取り組みを具体化してきた舞台の一つが3,013戸を擁する高津団地だ。より幅広い層への展開を見据え、同機構はUR賃貸住宅全体の多様な住民像を反映しているこの団地でマーケティングなどの試行を重ねてきた。千葉エリアで団地マネージャースタッフを務めるUR都市機構の鷲足 涼氏は「やはり自分で現地に足を運び、来てくださる方とコミュニケーションを取ることが一番です。ご高齢の方からも孫と接するような感じで話しかけていただけるのはありがたいですね」と現場での住民との関わりについて説明する。
その後、大学との共同研究を通じて、蓄積したデータをヘルスケアへ生かす視点も加わる。さらに2023年度にはUR都市機構が設置した民間企業との連携に向けた準備会へ日立が参画し、社会参加を促すスマホアプリを提案。PoC※1を経て、アプリの行動データとUR都市機構が蓄積したアンケートやイベント参加ログなどを組み合わせる分析へ踏み込んだ。
「当初は健康のためにデータをどう使えるのか悩んでいましたが、PoCの分析結果を見て、私たちのアンケートが初めてデータとして生きてくると感じました」と回想するのは、松尾氏と共にURコネクトプロジェクトを立ち上げたUR都市機構の赤堀 圭佑氏。異なるデータを重ねることで、社会参加と健康との関係を読み解く手がかりが得られたという。
2025年3月、UR都市機構は社会参加など介護予防につながるヘルスケア領域のパートナーを公募して、日立を含む3社を選定した。日立との協働について松尾氏は「当初はスマホアプリを提供してもらう形でしたが、今ではデータ連携や分析、評価まで幅広く支援していただくようになりました」とその変化を説明。こうして両者の関係は、協創パートナーとして共に事業を考える段階へ深まっていった。
そして2025年9月、UR都市機構と八千代市、日立を含む民間企業3社は「健康なまちづくり」に係る覚書を締結。同年11月から高津団地で住民の健康増進と地域活性化を図るサービス実証が始まった。本実証では各者が強みを持ち寄り、UR都市機構は全体調整や住民との接点づくり、日立はPoCで使用したものとは異なる新たなスマホアプリを活用してデータ分析のほか「団地ポイント」の仕組みづくりを担当。このポイントは日々の歩数だけでなく団地内の拠点訪問やイベント参加でもたまり、ポイント利用の仕掛けも用意。こうした仕組みによって外出や社会参加への動機付けを図った。さらにアプリ単体で完結させず、他社のサービスや地域イベントとも連動させている。
これはいわば、「歩く」「集まる」「相談する」といった日常の活動をポイントでゆるやかにつなぎ、住民が楽しみながら健康づくりに取り組むことができる仕掛けだ。健康そのものを前面に押し出すのではなく、楽しみながら外出や社会参加を促し、その効果をデータから確かめる「健康なまちづくり」の実証がこうして動き出した。
※1 Proof of Concept
松尾 知佳
独立行政法人都市再生機構
ビジネスコミュニケーション部 企画課
(兼務 ウェルフェア推進部 計画推進課)
主幹
赤堀 圭佑
独立行政法人都市再生機構
東日本賃貸住宅本部 千葉エリア経営部
団地マネージャー
鷲足 涼
独立行政法人都市再生機構
東日本賃貸住宅本部 千葉エリア経営部
団地マネージャースタッフ
独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)
[所在地] 神奈川県横浜市中区本町6-50-1 横浜アイランドタワー
[設 立] 2004年7月1日
[職員数] 3,225人(2026年4月1日現在)
[事業内容] 都市再生事業、賃貸住宅事業、災害対応支援、海外展開支援 等