【日立のPM力】PMの本質は変わらない――多組織・異文化の壁を越え、対話でつなぐプロジェクトマネジメント

2026年9月4日

24時間365日稼働するコンビニATMをはじめ、組織や国境を越えた大規模プロジェクトに携わり、長年にわたり金融システムの最前線を支えてきた日立製作所DSS(デジタルシステム&サービス)DSBU(デジタルサービスビジネスユニット)事業主管の豊川聡にインタビュー。数々の経験を通じて培った、PM(プロジェクトマネージャー)の本質とは何か。時代や技術が変わっても決して変わらない日立の「プロジェクトマネジメント力」、そして「組織の壁」を乗り越えて一つのチームをつくりあげる、その真髄に迫ります。


時代や技術が変わっても変わらない、PMの「本質」

――プロジェクトごとに環境や扱う技術が変わる中、PMとして変わらず大切にされてきたことは何でしょうか。

豊川聡(DSBU事業主管) 豊川聡(日立製作所 デジタルサービスビジネスユニット 事業主管)

プロジェクトは一つひとつ状況が異なり、お客さまも違えば、採用する技術も、一緒に働くメンバーも毎回異なります。それでも、PMが果たすべき本質的な役割は変わらない。それは、「チームを率いて、ステークホルダーと丁寧に調整を行い、ゴールに向かって完走する」ことです。

 

現在はDXや生成AIが大きな注目を浴びていますが、かつてはメインフレーム(大型汎用コンピューター)からダウンサイジング(小型化)への移行や、グローバル化がテーマでした。時代や技術が変われば、向き合うリスクや課題の形が変わります。それらを適切にマネジメントして前進させるという本質は、昔も今も全く同じなのです。


「組織の壁」を乗り越えた対話と信頼関係

――多くの関係者が関わるプロジェクトにおいて、人や組織を一つにまとめるために大切にされていることは何でしょうか。

私は、法人向け海外インターネットバンキングシステムを立ち上げる初期プロジェクトを担当していました。非常にやりがいのあるプロジェクトでしたが、何より大変だったのは社内の「組織の壁」でした。日立のような大きな組織では、どうしても縦割りになりがちです。その結果、どの部署の担当とも言えない「ポテンヒット」のような隙間の対応事項が生じることがあります。

 

関係者は全体で200人規模にのぼる中、各組織の間で「その仕事はどちらが担当するのか」といった調整がたびたび生じました。この状況を乗り越えるために私が実践したのは、非常にシンプルですが「相手の懐に飛び込んでいくこと」でした。

 

嫌な話や厳しい指摘から逃げずに、相手の組織へ直接足を運ぶ。大勢が集まる会議ではなく、議論をまとめているリーダークラスのもとへ一人で出向き、一対一で対峙して、愚直に会話をしました。大勢の前では言えない本音を聞き出し、時には「一緒に昼飯でも行きませんか?」と誘いながら信頼関係を築いていったのです。誠意を持って話し続けるうちに相手の姿勢も変わり、味方になってくれました。PMの最も難しく、かつ大切な仕事は、こうした「信頼に基づくチームビルディング」に尽きると感じています。

 

また、プロジェクトで最初に取り組んだのは、プロジェクト資料からすべての「社内組織名」をなくすことでした。「〇〇基盤チーム」「〇〇アプリチーム」といった組織の背景が見える名称を外し、ひとつのプロジェクトチーム名に統一したのです。形から入るようですが、全員が「組織ではなく、このプロジェクトの一員なんだ」という共通意識を持つための工夫でした。


海外駐在で学んだ「スピードと品質」のリアル

――海外駐在のご経験もお持ちですが、日本と海外でのプロジェクト推進の違いや、学びについて教えてください。

2013年から約2年半、マレーシアを本拠地とする日立グループの金融IT企業(Hitachi eBworx)へ現地PMとして赴任しました。ここで日本と海外の仕事文化の大きな違いを痛感しました。

 

最大の相違点は「スピードと品質」に対する考え方の違いです。現地の開発文化では、まず素早く市場にリリースし、運用しながら改善していくスピードを重視していました。確実性を最優先する日本とは異なる考え方ではありますが、スピードこそが現地の金融機関にとっての競争力になっていたのです。

 

一方で、日本品質を知るお客さまだったこともあり、日立グループに対する高い品質への期待もありました。スピードを重視する現地の開発現場と、高い品質を求めるお客さまとの間で、どのように折り合いをつけるかが課題でした。

 

納品後のテストで不具合が発⽣した際、お客さまからは「原因の根本追求を徹底すべきだ」と求められました。しかし、スピード重視の現地チームにそれを求めるのは容易ではありません。そこで私や日本人の品質保証スタッフが間に入り、課題の傾向を分析して効果的な品質向上施策を提示するなど、現地チームの考え方を尊重しながらもお客さまに納得していただける形を、粘り強く対話を重ねて探りました。

 

現地チームとの一体感づくりでは、言葉の壁を恐れない行動を心がけました。当初用意されていた個室の席を辞退し、メンバー全員が見渡せるオープンな場所に席を移しました。言葉が不十分でも、周囲の雰囲気から「何かトラブルが起きていそうだ」と察知し、すぐに声をかけることができます。同じ空間で同じ景色を見ることで、文化や言語の壁を越えたOne Teamを築くことができました。


社会の「当たり前」を創る責任感と、受け継がれる日立のDNA

――これまで携わってこられたプロジェクトの中で、社会インフラを支える仕事ならではの責任ややりがいを実感したのは、どのような場面でしたか。

豊川聡(DSBU事業主管)

入社して間もない頃に携わった、コンビニATMで24時間365日お金を引き出せるようにするシステムの構築です。今でこそ当たり前のインフラですが、当時は夕方に銀行が閉まると夜間はお金が下ろせない時代でした。社会の当たり前を変え、人々の生活を便利にするシステムの一端を担えたことは、今でも大きな誇りです。

 

このプロジェクトでは、日立の「圧倒的な品質への責任感」を学びました。膨大なシステム設定値(パラメータ)が正しく設定されているか、分厚い書類と突き合わせながら1件ずつマーカーでチェックし、確認の印鑑を押していく作業を重ねました。万が一トラブルが起きたとき、誰が責任を持って確認したかを明確にするためです。

 

人々の生活を支える社会インフラを担う以上、妥協なく品質を追求する。「現場に入り込み、変革を起こし、そこで得た知見を次の技術へ還元する」。このDNAこそが日立のFDE*の源流だと確信しています。

 

FDE(Forward Deployed Engineer):顧客の事業の現場に直接入り込み、経営課題の特定から、PoCによる早期の価値検証、実業務へのアジャイルな実装まで一気通貫で行うエンジニア。


AIが変える未来と、日立がめざす明るい社会

――日立は、デジタルの力を活用し、地球環境、人々の幸福、経済成長が調和する、ハーモナイズドソサエティの実現をめざしています。豊川さんは、デジタルの力でどんな未来をめざしていますか。

今後、AIは社会やシステム構築のあり方を劇的に変えていきます。これまでは人間が画面(UI*)を操作してシステムを動かしていましたが、これからはAI同士がデータや処理を会話するように連携し、裏側で自動処理する時代になります。

 

現在、私たちはITシステムを仮想空間上に再現する「ITシステムのデジタルツイン」という先進的な取り組みを進めています。システム改修の影響範囲を仮想空間でAIにシミュレーションさせることで、より安全かつ迅速な自動改修をめざす試みです。もちろん、AIの活用にはさまざまなリスクも伴います。だからこそ、日立が間に入り、リスクを適切に取り除いた上で、社会にポジティブなインパクトを届けていく責任があります。

 

日立には、AIやソリューション、製品を扱う多様な組織が集結しています。時に組織の垣根を越える難しさはありますが、それを突破して一つになったとき、社会に大きな価値を提供できる強みがあります。多様なメンバーを「家族」のように一つにまとめ、大きなプロジェクトを成し遂げる。そうした挑戦ができるのが日立ならではの魅力です。

 

かつてコンビニATMで人々の暮らしを便利にしたように、これからはAIとデジタルの力で、社会や暮らしの未来をより明るく照らしていく。それこそが、私たちがめざすデジタル社会への挑戦です。

 

UI:User Interface(ユーザーインターフェース)。ユーザーがコンピューターシステムやWebサイトを操作し、情報をやり取りするための方法、操作、表示などの仕組み。

関連リンク

金融ソリューション:日立

デジタルシステム&サービスセクターのプロジェクトマネジメント:デジタル:日立
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