東北電力ネットワーク「引込線以下設備不良予兆検知システム」導入事例

【前編】予期せぬ停電は未然に防げるか?

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2026年9月24日

東北電力ネットワーク株式会社(以下、東北電力ネットワーク)と日立などによる「引込線以下設備不良予兆検知システム」の開発・実用化が、第70回澁澤賞を受賞した。スマートメーターの既存データを電力保安に生かす同システムは、電圧低下や停電などのイベント情報をAIで分析し、一般家庭につながる電気設備の不良を停電前に捉える仕組みだ。より効率的な設備保守への転換を支えた発想や技術について、両社のプロジェクトメンバーに話を聞いた。


停電後の駆け付けから、停電前の予兆保全へ

2025年11月、「引込線以下設備不良予兆検知システム 開発・実用化グループ」が、第70回澁澤賞の「発明・工夫、設計・施工」部門を受賞した。澁澤賞は日本の電気保安体制の確立に大きな功績を残した澁澤元治博士が1955年に文化功労者となったことを記念して、翌1956年に創設された表彰制度。電気保安に優れた業績を上げた個人やグループに毎年贈られ、民間で唯一の電気保安関係表彰として知られている。さらに2026年5月には、同システムの開発・実用化が第79回東北電気関係事業功績・功労者表彰でも特別功績賞に選ばれた。

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このシステムが対象とする引込線以下設備とは、電柱から一般家庭のスマートメーターまでの電力設備だ。経年劣化や強風、積雪、落雷などの気象影響により不具合が生じることがあり、従来は5年に1度の巡視で状態を目視確認していたが、電気的な状態までは把握しにくかった。もし突発的な停電が発生すれば、需要家からの連絡を受けて保守員が現場に駆け付けなければならない。

 

「設備は徐々に劣化していくため、いつ停電するか分かりません。事業所の統廃合や社員数の減少もある中、お客さまから連絡を受けてから向かえば30分、1時間とお待たせすることもあります。計画的に取り替えられれば、お客さまにも安心して電気を使っていただけると考えました」とかつての状況を振り返るのは、配電部門でスマートメーターを管理するMDMS※1の改良などに携わる東北電力ネットワークの風張 勇介氏。こうした課題を解く手掛かりとして、同社が着目したのがスマートメーターから得られるデータだった。

 

※1 Meter Data Management System

スマートメーターデータに見いだした新たな価値

スマートメーターの主な役割は使用電力量を遠隔で収集することだが、機器には瞬間的な電圧低下や停電といったイベント情報も記録される。東北電力ネットワークはスマートメーターのデータを料金算定だけでなく配電業務にも生かせないかと考え、2019年度に日立との共同研究を開始。管内では2023年度末にスマートメーター化がほぼ完了しており、共同研究はその本格普及を見据えてデータの新たな価値を探る先行的な試みでもあった。

 

現在の仕組みでは、スマートメーターが保持するイベント情報を遠隔でシステムに収集し、その発生状況を分析する。これについて、スマートメーターの運営に携わる東北電力ネットワークの柴田 豊氏は「分析結果から設備不良の可能性が高いと予測した対象は、MDMS上に表示されます。それを基に社員が現場で設備を点検し、不良が見つかれば停電が発生する前に改修できるのです」と説明。一方で、ここに至るまでには予測精度を高めるための試行錯誤もあったという。

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共同研究では当初、停電前に増えるイベントの発生件数に着目していた。しかし、メーターごとに件数のばらつきが大きく、単純な回数だけでは設備不良を十分な精度で捉えられない。そこで両社はイベントの発生状況を別の角度から捉える方法を模索していくことになる。

「密度」という発想が開いた予測の突破口

その突破口となったのが、一定時間内にイベントがどれだけ集中しているかを捉える「密度」という考え方だ。単純な回数による予測の限界が見え始めた2019年秋以降、両社は新たな分析方法を探る試行錯誤を重ねた。共同研究でシステム開発を統括した日立の和田 義將は「停電前にイベントが増えるという電力会社の知見を、『密度』という形でシステムに取り込めるのではないかと考えたのです。その発想に行き着くまでには、さまざまなアプローチを検討しました」と振り返る。

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この「密度」に着目するアプローチでは、まず電圧低下や停電など複数のイベントが「直近の一定時間にどれだけ集中したか」を比較できる形にプログラムで変換。その上で「密度がどのような状態になれば停電につながるのか」をAIによる機械学習で判定する。そしてその予測精度を高める鍵となったのは、どのデータをどのような形でAIに学習させるかという設計だった。共同研究から生まれたこの密度化の技術は、後の特許取得にもつながっている。

 

なお、共同研究では予測精度の指標として設備不良を予測した対象のうち実際に不良が確認された割合を示す「的中率」と、実際に発生した設備不良のうち予測で捉えられた割合を示す「カバー率」の双方を重視。予測対象を絞り込めば的中率は上げやすい一方、実際の設備不良を取りこぼす可能性も高まるため、両者をどこまで両立させるかが実用化に向けた課題となった。その背景について「東北6県と新潟のエリアでは日々お客さまから停電の連絡があります。的中率の高いものだけを抽出するのではなく、停電を少しでも減らすためにはカバー率も上げたいという思いがありました」と風張氏は明かす。

 

その後2022年2月には、丹念に進められた共同研究の成果を東北電力ネットワークのMDMSに実装。管内全域で試行を重ねながら、精度と運用の両面から磨き込まれていった。そして技術的な突破口を得たプロジェクトは、次に新たな保守の考え方を現場に根付かせるフェーズへと進んでいく。

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風張 勇介

 

東北電力ネットワーク株式会社

配電部(スマートメーター運営)

主査

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柴田 豊

 

東北電力ネットワーク株式会社

配電部(スマートメーター運営)

主務

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和田 義將

 

株式会社日立製作所 社会システム事業部

エネルギーシステム第一本部 エネルギーシステム第一部

担当部長

東北電力ネットワーク株式会社

[所在地] 宮城県仙台市青葉区本町一丁目7番1号

[設 立] 2019年4月1日(2020年4月1日より事業開始)

[従業員数] 6,381名(2026年3月末現在)

[事業内容] 一般送配電事業、離島における発電事業 等

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