Physical AI Day 【General Session 02】
Physical AI Day 【General Session 02】
2026年8月26日
2026年5月20日、日立製作所はフィジカルAIがもたらす変革や活用について考える「Hitachi Physical AI Day」を開催した。フィジカルAI活用の全体像を展望する三つのGeneral Sessionのうち、General Session 02では、日立のAIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」がビジネスの最前線においてどのように展開されているのか、実践事例を紹介した。その模様を2回にわたってお届けする。第1回は、日立製作所執行役専務 谷口潤がHMAXの全体像を、日立エナジーのウルフ・ミュラー サービスビジネスユニットCEOがエネルギー領域におけるフィジカルAIの可能性について語る。AIによって知性を持ちつつあるエネルギーシステムが社会にもたらす価値とは。
谷口
日立は今から100年以上前に銅鉱山の電気部品の修理から事業を始めました。最初に開発したのはモーターです。そこから電気機関車、エレベーター、エスカレーター、新幹線など、社会インフラを支えるプロダクトへと事業を広げてきました。さらに、それらを制御する信号システムやITシステム、画像認識や音声認識を出発点としたAIの開発にも早くから取り組んできました。ミッションクリティカルな領域をイノベートしてきたことが日立の強みです。
そして10年前から全社で推進し始めたのがLumadaです。現在は第三世代のLumada3.0となり、AIと社会インフラを組み合わせて新たな価値を創出する戦略を掲げています。本日ご紹介する「HMAX」は、Lumadaの中でフィジカルAIを代表するソリューション群です。NVIDIAとのパートナーシップにより2024年に生まれました。
例えば高速鉄道では、列車そのものがセンサーの役割を果たし、自分自身だけでなく、架線や線路の状態も日々モニタリングしています。しかも、ただモニタリングするだけでなく、AIが状態を分析し、「このままだと架線が切れるかもしれない」といったリスクを考え、必要に応じて列車を止める判断、障害がおこる前にインフラを保全するまで行うようになっています。HMAXはこのように、フィジカルな世界を理解し、考え、動かすAIを社会実装するためのプラットフォームです。
HMAXは、すでに経営面でも大きなインパクトを生み出していますが、2030年には、HMAXに代表されるLumada事業を、日立全体の売上の80%にまで引き上げる計画です。これまでAIが十分に実装されていない社会インフラ領域を皆さんとともに開拓し、社会インフラを進化させていきたいと考えています。
では、ここからは私のチームメイトでもある、エナジー、ビルシステム、モビリティ分野の各リーダーより具体的な事例を紹介していきます。まずは日立エナジーのウルフ・ミュラーさんが、エネルギー分野におけるフィジカルAIについて語ります。
ミュラー
エネルギーはフィジカルAIと非常に相性のよい領域です。AIは大量のエネルギーを必要としている一方、エネルギーシステム自体もみずからを改善するために大量のAIを必要としています。
現在のエネルギーシステムは、複数のシステムが統合・連携して全体最適を実現する「システム・オブ・システムズ」となっています。いわば極めて巨大な機械のようなものです。日立エナジーはその中心で1世紀以上にわたりエネルギーシステムとインフラを支えてきました。それはこれからも変わりません。
エネルギーのシステム・オブ・システムズは、かつてないほどダイナミックに進化しています。そのため、100年前につくられたシステムでは現在求められている役割を果たすことが困難になっています。しかし幸運なことに、AIと大量データが活用できるようになったことで課題解決の道筋が見えてきました。
エネルギーシステムは発電と送電で構成されますが、その変革はこれまで発電分野を中心に進んできました。気候変動や地政学的な影響を受け、エネルギー源は化石燃料から再生可能エネルギーへと大きくシフトしています。現在、世界で新たに追加される電源容量の90%が再生可能エネルギーです。しかし、再生可能エネルギーは不安定なことが問題であり、電力系統にさまざまな問題が発生します。
その解決策の一つは、蓄電池などのエネルギー貯蔵です。短期的なバッファリングによって、再生可能エネルギーの変動を補うだけでなく、電力需要増への対応にも有効です。
世界的な電化は非常に速いスピードで進んでいます。今後10年で70%増加するとも予測されており、需要の伸びにインフラ整備が追いつかない可能性があります。さらに、発電容量だけでなく、負荷の特性の変化も課題です。特にデータセンターは一般家庭や企業とはまったく異なり、電力消費が不規則で、急激な負荷のスパイクも発生します。そこで必要になるのが蓄電システムになり、負荷の管理ができるようになります。需給調整では主に発電側を制御してきましたが、これからはエネルギー貯蔵や電力取引を利用しながら、需要側、つまり負荷そのものもデスパッチャブル(需要に合わせて制御できること)な時代になっています。
需要制御の中心となるのはグリッドアセット(送変電設備)です。HVDCやパワーエレクトロニクス機器など、電力系統の安定化に積極的な役割をはたす機器も増えていますが、変圧器や開閉装置など、従来は受動的だった機器も、今後はより能動的で知的な存在になっていく必要があります。電力網では、ナノ秒、ミリ秒単位の判断が24時間365日求められます。さらに、その複雑さは増し続けています。そうした中で、ネットワーク制御システムや市場管理システムが正しい判断を下すために、HMAXが重要な役割を果たします。エネルギーインフラを支援する「HMAX Energy」は、電力システム全体をより賢くするための基盤になるのです。
例えば、どこに新しいデータセンターを建てるべきか。次世代の発電設備はどこに置くべきか。変圧器をどこに増設すべきか。国をまたぐ高圧直流送電によってどのように電力システムを安定化させるか。こうした計画を立案するには、これまでシミュレーションに何年も費やす必要がありました。しかしHMAX Energy ではNVIDIAとのパートナーシップによって、その期間を数週間まで短縮できました。AIは、グリッドアセットの管理のあり方を根本から変えようとしているのです。また、AIはエネルギーシステムのサービスの概念も変えています。今後は故障してから修理するのではなく、「何か起こる前にシステムを止める」という考え方であり、意思決定が変わってきます。
とはいえ、エネルギーは私たちの日常生活すべての基盤ですから、AIを使う上では規制や安全、人間の関与を重視しなければなりません。
HMAX Energyは、エネルギーシステムをより自律的にし、その中に眠っている余力を引き出すことを可能にします。米国では、既存システムの中に約30%もの余剰容量があるとも言われています。新たに発電所をつくるだけでなく、すでにある容量を賢く使うこと。それが、より早く、より安全に電力を供給する道であり、HMAX Energyが社会に提供する価値なのです。
日立は、9月3日(木)と4日(金)の2日間、日立グループ最大規模のイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」を東京国際フォーラムで開催します。詳細・お申し込みは下記バナーから公式サイトをご参照ください。