2026年2月24日
近年、関税や紛争、環境規制など、企業を取り巻く環境はかつてない速度で変化している。こうした中、現場や外部環境の変化によるリスクを迅速・的確に捉え、プロアクティブに対策を講じる経営アジリティの向上が求められている。
日立は、社会インフラの現場データをAI(Artificial Intelligence)とドメインナレッジで解析し、インサイトを獲得するHMAX by Hitachiを展開している。この現場データのインサイトに対して、経営データや外部環境データを融合し、金融リスクの視点から解析することで、資材価格高騰や設備老朽化などのリスク兆候を捉え、最適な融資や保険を動的に提案するデータ駆動の新たな金融サービスが提供可能となる。こうした仕組みを社会インフラのプロジェクトファイナンスなどに適用し、インフラ事業の安全性と変化への俊敏性を強化するとともに、インフラ構築・維持に不可欠な資金需要を支える「社会インフラ×金融」のソリューションでサステナブルな社会の実現に貢献していく。
[1]データ駆動型金融による金融サービスの動的提案
国内外でトークンなどのデジタル資産を扱うためのルール整備が進み、価値が安定するステーブルコインへの注目が米国を中心に高まっている。こうした中、トークンやステーブルコインが取引されるブロックチェーンなど、複数の参加者が管理する「分散型」の仕組みと、旧来の銀行システムやQR(Quick Response)コード*決済などの一つの組織が管理する「集中型」の仕組みを連携させることが重要になっている。
日立は、この連携を高い信頼性で実現する技術の研究開発を進め、KYC(Know Your Customer:本人確認)やAML(Anti-money Laundering:不正取引対策)を行う監視・トラスト基盤技術も整備していく。これにより多様な資産を安全に取引でき、資産の流動性を高める効果が期待できる。さらに、DC(Data Center)・交通やエネルギーといった社会インフラで培った知見を生かして新しい形の決済を提案し、新たな金融市場を開拓することで経済の活性化に貢献していく。
[2]決済インフラの将来像と日立の取り組み
注:略語説明ほか PKI(Public Key Infrastructure:公開鍵基盤)
日立は、デジタル決済の信頼確保、金融包摂の推進、運用効率の向上といった重要課題に対応する、安全でコスト効率の高いプラットフォームを基盤に、デジタル決済とサービスの高度化を進めている。高度なデジタル通貨およびブロックチェーンのフレームワークを活用することで、条件付き取引を可能にするプログラマブルマネーを実現し、決済条件の動的な調整や透明性の確保を支援する。これは補助金の給付やサプライチェーン決済におけるイベントベースの支払いなどのシーンに利用できる。
また、インテリジェントオートメーションは、運用コストを削減し、ROI(Return on Investment:投資利益率)の向上を加速させる大きな可能性を秘めている。これを実現するため、日立はデータ統合とワークフロー自動化を可能にする、マルチエージェント言語モデルによるエージェント型AIソリューションの構築を進めている。例えば、AIエージェントによる決済上の問題解決プロセスでは、多様なデータ入力を活用して取引上の潜在的な問題を事前に特定し、解決プロセスを迅速化する。これにより顧客体験が向上し、自動化によって社内の運用負荷が軽減される。
これらのイノベーションをHMAXと連携させることで、運用コストの低減、コンプライアンス対応の迅速化、顧客の信頼性向上といった具体的なメリットを提供する。
[3]信頼性の高い決済ソリューション
注:略語説明 DB(Database)
サステナブルファイナンスの拡大に伴い、金融機関にとって建物の脱炭素余地をいかに標準的かつ効率的に評価するかが課題となっている。従来の評価は入力データや専門知見への依存が大きく、金融実務での活用に限界があった。
日立は、シンガポールを起点としてこうした課題に応えるサステナブルファイナンスプラットフォーム事業を推進している。2024年には、シンガポール政府機関[MAS(Monetary Authority of Singapore)、BCA(Building and Construction Authority)]と連携し、建物の脱炭素余地を定量評価する標準手法を共同開発した。AIの活用により入力項目と計算時間を削減するとともに、データ収集・検証、建物特性に応じた基準性能推定、エネルギー・CO₂削減量算定までの一連のプロセスを体系化した。
こうした手法と、政府連携による高信頼のビル環境データを組み合わせ、ビルやテナントの環境性能比較やBest ROIなど、シナリオに沿った改善計画立案が可能な分析サービスを銀行へ提供し、ローン提案の高度化とASEAN(Association of South-East Asian Nations)のGX(グリーントランスフォーメーション)を支援する。
[4]サステナブルファイナンスプラットフォームのビジネスモデル
自治体の運営広域化施策や、ライフライン設備の統廃合の加速、人口動態の変化に伴い、社会インフラの維持管理が社会課題となっている。特に都市部のインフラは複雑に入り組んでおり、更新計画の策定や事業体間の調整には多くの工数を要する。こうした課題に対して、日立はインフラ情報を一元管理できるデジタルツインや、正確な現況把握技術、更新前後の影響評価技術を用いて、必要な情報の収集や事業者間の合意形成を支援する技術を開発している。
具体例として、電柱工事などの敷設設計においては、規則に基づく配置だけでなく、敷設時の干渉確認や敷設後の景観も検討が必要である。本技術は、構造物を安全かつ効率的に配置できる範囲を自動的に計算し、仮想構造物を配置することで、計画や設計の業務効率化を実現する。また、3D(Three Dimensions)表示を利用して直感的に理解を促し、ステークホルダー間の合意形成も迅速化する。これらの技術は、電力・通信・水道・道路・鉄道などの事業領域に適用可能であり、社会インフラDX(デジタルトランスフォーメーション)基盤として、持続可能な都市運営に貢献する。
[5]電柱敷設における設計効率化技術
茨城県日立市と日立製作所は、スマートシティ実現に向けた共創プロジェクトを推進している。その中核となるのが、都市デジタルツインとCyber-PoC for CitiesによるSBPM(Simulation-based Policy Making)である。日立市では幹線道路の渋滞が大きな課題の一つとなっており、SBPMを通じてデジタル空間上で交通施策を検証し、渋滞解消に取り組んでいる。
SBPMは、多様なデータを用いて人口分布や地域特性を再現した都市デジタルツイン上で、さまざまな交通施策をシミュレーションし、効果を検証するものである。そして、都市デジタルツインでの検証から得られる施策のメリット・デメリットを、Cyber-PoC for Citiesを通じて異なる視点からインタラクティブに示すことで、住民・自治体・事業者間の合意形成を支援し、まちづくりの意思決定を加速する。
日立は、日立市におけるデータ駆動型の都市開発を通じて、Society 5.0に対応する持続可能な次世代都市モデルの構築とIWIM(Integrated World Infrastructure Model)の実現をめざしていく。
[6]都市デジタルツインおよびCyber-PoC for Cities
注:略語説明ほか PoC(Proof of Concept)、KPI(Key Performance Indicator)
※)本キャプチャ画像は、本ツールにて地図データとしてOpenStreetMapを用い、交通流・人流データ、国土交通省国土数値情報(鉄道データ)および令和2年国勢調査結果(利用交通手段別通勤者数データ)を可視化したものである。
各業界における業務の効率化に向けてAIエージェントの高精度な推論を実現するためには、大規模なデータインフラの活用が重要であり、増加するデータインフラのコスト抑制が鍵となる。これに対し、日立はデータインフラ向けの高効率AI技術を研究している。
AIエージェントの推論向けのデータインフラでは、膨大な実世界のソースデータをAIが処理できる形式に変換するベクトルデータ生成処理を実行し、また膨大なソースデータやベクトルデータをストレージに格納して保持する。本技術は、画像データの処理対象を絞り込むことでベクトル生成処理を効率化し、独自の高い処理効率の予測モデルで各種データの高圧縮を実現する。これにより、各業種向けのAIエージェントの推論で膨大な実世界のデータを扱う際に必要なリソースを削減し、高効率に活用できるようにして、データインフラの投資効果の向上をめざす。
今後は、金融、製造業、ヘルスケアなどの分野におけるAI活用を想定し、実用化に向けた研究を推進していく。
[7]データインフラ向けの高効率AI技術
基幹システムの開発運用では、新機能の追加や関連ソフトウェアのアップデートのたびに、現行仕様の確認や影響調査を行う必要があり、関連する設計書や仕様書などのドキュメントを複数回参照する作業が発生する。しかし、これらのドキュメントは数千におよび、その中から目的の情報を探し出す作業は非常に煩雑である。
日立は、基幹システムの開発運用で発生する人手作業を省力化するAI技術の開発に取り組んでいる。その中でも、ナレッジ探索AI技術は、目的の情報に関連する設計書群を迅速かつ正確に引き当てることができる。これにより、要件定義時の現行仕様確認や、顧客からの問い合わせ対応における原因分析などの作業を容易かつ迅速に行うことが可能となる。
基幹システムそのものには改修を加えることなく、アジャイルに生成AI付加価値機能を利用できるナレッジ探索AIを通じて、基幹システムの開発運用の効率化に貢献する。
[8]関連する設計書を取得するナレッジ探索AI技術
長らく労働集約産業とされていたシステムインテグレーション業界において、開発ライフサイクルにAIエージェントを「デジタル労働力」として導入し、開発のあり方を再定義していく動きがある(SEAIX:System Engineering AI Transformation)。営業、ビジネス、プロジェクトマネジメント、設計開発、運用、品証、法務、財務、調達などの役割を持ったエージェント群を協調させることで、人間の担う役割や能力を拡張したり、並行で工程を進めるコンカレント・エンジニアリングを可能としたり、レビューの量と質を大幅に拡大したりすることができる。これにより、従来のやり方では困難だったスピードと品質でのシステムリリースも可能となりつつある。
こうしたエージェント協調開発の実現に向けて、日立は、役割の振る舞いを再現するエージェントロールプレイング技術と、複数エージェント間の対話連携を加速するマルチエージェント連携技術を開発し、開発上流工程におけるシステム企画構想生成のシナリオにおいてエージェント協調開発の実現性や有効性を確認している。
[9]AI協調開発を実現するSEAIX構想
注:略語説明 PO(Product Owner)
近年、ITシステムにおいて従来運用されていたVM(Virtual Machine)環境を、VMとコンテナの双方に対応させてクラウド・ネイティブな運用を行えるコンテナ環境に見直すVM移行が大きなトレンドの一つとなっている。顧客のVM移行においては、長大なVM移行時間の短縮とVM移行後の従来環境同等以上の高可用性の確保が課題である。
これらの課題に対処するため、日立は、VM移行ツールやコンテナ運用基盤と連携した二つの革新的な技術を開発した。
(1)高速なストレージのデータコピー技術を用いて、VM移行の長時間化の主原因であるデータコピーの時間を大幅に短縮する技術
(2)コンテナ実行基盤とストレージを連携させ、VMとコンテナおよびそれらが保持するデータを一括して高可用化し、さらに災害対策を行う技術
本技術は、VM移行ソリューションに採用されており、これらにより顧客のITシステムの近代化に貢献する。
(日立アメリカ、日立ヴァンタラ)
[10]ITシステムの近代化と高可用化を両立するVM移行ソリューションの概要