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Hitachi Global

研究開発

エナジー

2026年2月24日

研究開発, エネルギー


1. 設備知識デジタル化と信頼性中心保全による設備寿命延長サービス

電力設備の高経年化や人手不足という社会的課題に対し、送配電設備の寿命延長と更新計画の最適化を実現する保全計画技術を開発している。本技術は、AI(Artificial Intelligence)による低工数・高カバレッジな設備知識構築と、RCM(Reliability Centered Maintenance:信頼性中心保全)によるリスク評価に基づく計画最適化を通じて、高信頼・高効率な保全を実現している。

設備知識構築における特長は、設備の資料や知識から、信頼性知識のオントロジとLLM(Large Language Model)の利用により、低コストで大規模な知識グラフをAIで生成できる点である。これにより、IWIM(Integrated World Infrastructure Model )で重視されるナレッジの作成工数を人手による作成に比べて70%削減しつつ、5倍の知識を構築することに成功した。また、変電所向け高経年GIS(Gas Insulated Switchgear)において、設備知識とRCM手法に基づき設備の故障特性に応じた最適保全計画を策定することで、リスクの見直しとIoT(Internet of Things)の活用を通じ、信頼性を維持しながら保全作業量を削減できることを定量的に検証した。

[図1]設備知識デジタル化と信頼性中心保全の概要 [1]設備知識デジタル化と信頼性中心保全の概要

2. 原子力のLumadaビジネス化を支えるデジタル技術

休止中の原子力発電所では、再稼働に向けて新規配管や機器の追設を伴う改造工事が行われており、既設物と設計内容の干渉による設計と施工間の手戻りの発生が課題となっている。これを防ぐため、設計段階で既設物を計測した点群と設計CAD(Computer Aided Design)を統合し、干渉判定を支援するDWD(Digital Walkdown)と、現場に設計CADを重畳表示するMR(Mixed Reality)を開発している。干渉判定は、共通する設備位置を基準に点群とCADを重畳し、CADと同位置に存在する点群を抽出することで実現する。しかし、計測ノイズを含む点群では基準設備の検出が困難となり、重畳精度の低下による判定漏れのリスクが残る。そこで本研究では、レーザースキャナの計測原理と配管形状の光学モデル解析に基づき、配管点群とノイズを分離する手法を開発した。実機データによる検証の結果、ノイズを含む点群に対しても安定した重畳が可能となり、干渉判定に必要な精度水準を達成した。本取り組みにより、設計と施工間の手戻り防止が可能となり、原子力発電所の確実な再稼働に寄与する。

[図2]デジタル技術を活用した配管敷設計画プロセス [2]デジタル技術を活用した配管敷設計画プロセス

3. 建設リードタイムを短縮するSMR設計技術

生成AIの普及により電力需要の急速な増加が予測される中、その安定供給と脱炭素化を両立する切り札としてSMR(Small Modular Reactor:小型モジュール炉)の活用が期待されている。電力需要に追従するためには、安全性の確保を前提にSMRの設計・建設リードタイムの大幅な短縮が課題となっている。

そこで、設計リードタイムの短縮に向けて、プラントを構成するポンプ、タンク、電源盤などの機器配置と、それらを接続する配管ルーティングを対象に、AIと遺伝的アルゴリズムを用いた最適化手法による自動設計技術を開発した。建設リードタイムの短縮に向けては、工場での製造と建設サイトでの一体据付の範囲を拡大することで工期短縮と品質向上を図るため、構築物モジュールと機器・配管モジュールを一体化する複合モジュール化技術を開発中である。

今後は、自動設計技術と複合モジュール化技術を融合し、さらに製造性や施工性も考慮することで、設計から建設までの統合最適化を実現し、SMRの迅速な導入と電力供給の安定化に貢献する。

[図3]SMRの自動設計技術と複合モジュール化 [3]SMRの自動設計技術と複合モジュール化

4. サステナブルな原子力実現に向けた取り組み

原子力をサステナブルなエネルギー源とするため、日本はフランスと同様、既設軽水炉を最大限に活用しつつ、将来的には軽水炉の使用済み燃料に残るプルトニウムを燃料として繰り返し利用できる高速炉への移行をめざしている。しかし、高速炉の実用化は今世紀後半以降とされており、それまでは、使用済み燃料を再処理して減容する際に回収されるプルトニウムを、核不拡散の観点から軽水炉で燃焼する必要がある。

軽水炉の長期利用を見据えて再処理およびプルトニウム利用のあるべき姿を明確化するため、使用済み燃料の中間貯蔵容量といった社会的要請・受容性に依存して決まる事項を制約条件とし、再処理量やプルトニウム燃焼のための炉型および燃料など事業者が調整・選択可能な項目をパラメータとして、各種要請に応じつつ最も経済的なシナリオを探索するツールを開発中である。本ツールを用いて、日立が開発を進めている軽水炉でのプルトニウム燃焼に適したRBWR(Resource-renewable Boiling Water Reactor:資源再利用型BWR)の導入効果や、ウラン需要増加に備えたプルトニウム有効利用燃料の活用によるウラン使用量の低減効果を評価した。

このように、さまざまな想定シナリオに対する必要な技術とその導入効果の可視化など、ステークホルダーとの協創に本ツールを活用していく。

[図4]合理的な核燃料サイクルシナリオを探索するツールの概要と活用例 [4]合理的な核燃料サイクルシナリオを探索するツールの概要と活用例

5. 配電系統向け事故点標定技術の高精度化

配電系統は、機器故障や動植物の接触などに伴う系統事故による停電のリスクにさらされている。事故発生時には、作業員が事故点を特定し、原因を除去することが不可欠である。事故点標定は、事故サージの到着時刻から事故点位置を推定する技術であり、主に送電系統で実用化されているが、配電系統では事故サージが小さいため、標定精度の低下が課題となっていた。

この課題を踏まえ、日立は関西電力送配電株式会社と共同で、配電系統向けの新手法「波形マッチング方式」を開発した。本手法は、波形形状全体を比較することで到達時刻を検出する点が特長であり、サージが小さい場合でもノイズと正確に識別できる。さらに、フィールド試験波形を用いた評価により、平均標定誤差を従来の79 mから36 mへ低減できることを実証した。

2025年10月、カナダのモントリオールで開催されたCIGRE(Conseil International des Grands Réseaux Électriques)2025 International Symposiumにおいて本研究の成果を関西電力送配電と日立が連名で発表し、Next Generation Network部門のBest Paper Awardを受賞した。本賞は35歳以下の主筆者による論文の中から、各分野で最優秀と認められた10件に授与されるものである。

[図5]サージ伝搬と到着時刻の例 [5]サージ伝搬と到着時刻の例

6. 社会のデジタル化を支えるAI活用電力解析

DC(Data Center)は社会の効率向上を実現するデジタルインフラである。一方、大規模DCは消費電力が100 MWを超え、米国では発電所の新設も求められている。新規発電所の系統接続には電力系統の安定性・経済性・信頼性の事前評価が必要で、年単位の評価時間を要するケースもあり、DC早期導入の課題となっている。

日立は、米国の電力系統運営会社と連携し、スケーラブルなAI活用高速系統解析ソリューションプラットフォームを開発した。2024年には配電系統向けにAI活用の高速潮流解析機能を導入した。また2025年には、米国中部の地域送電機関Southwest Power Pool, Inc.とのパートナーシップを通じて本機能の基幹系統向け拡張を実現した。

物理ベースのAIと日立の電力ドメインナレッジの組み合わせにより、系統解析時間を80%削減することで迅速なDC導入を支援するとともに、本ソリューションの早期商用化をめざす。

[図6]AI活用系統高速解析ソリューションプラットフォームの概要 [6]AI活用系統高速解析ソリューションプラットフォームの概要

注:略語説明 GPU(Graphics Processing Unit)、API(Application Programming Interface)


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