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Hitachi Global

研究開発

新市場の創生に向けたイノベーション

2026年2月24日

研究開発


1. 4x4シリコン量子ビットアレイによる2量子ビット操作技術の開発

実用的な量子コンピュータを実現するためには、100万量子ビット以上の規模が必要とされ、量子ビットを効率的に制御する技術に加え、量子ビットの大規模集積化や、さらに誤り訂正符号の実装※1)が必須となる。日立はこれまで、訂正符号の実装に必要となる1量子ビットの寿命を従来よりも2桁以上安定化させる技術を開発してきた。実際の量子計算を行うためには、1量子ビット操作に加え、古典コンピュータの基本論理ゲートに相当する2量子ビット操作を実現する必要があった。

このたび、大規模集積化に向け二次元に配列した量子ビットアレイを用いた2量子ビット操作技術を開発した。4x4に配列した量子ビットアレイにおいて、縦・横に配列した2量子ビットを用いてそれぞれ2量子ビット操作が行えることを実験的に確認した。今後、誤り訂正の実装に向けた研究を加速し、量子コンピュータの早期実用化をめざす。

本研究は、JST(Japan Science and Technology Agency:国立研究開発法人科学技術振興機構)のムーンショット型研究開発事業(グラント番号JPMJMS2065)の支援を受けたものである。なお、量子ビットアレイの試作はimec(Interuniversity Microelectronics Centre)※2)で行った。

※1)量子計算の過程で発生する誤りを訂正する技術。一つの論理量子ビットを複数の量子ビットで表現し(冗長化)、その冗長量子ビットを利用して誤りを検出・推定する。
※2)ベルギーに拠点を置く、世界最先端の半導体研究開発インフラを持つ研究機関。

[図1]試作した量子ビットアレイチップ(a)、縦横に配置した2量子ビット間結合のチャージスタビリティーダイアグラム(b)、および横2量子ビットにおける2量子ビット操作(c) [1]試作した量子ビットアレイチップ(a)、縦横に配置した2量子ビット間結合のチャージスタビリティーダイアグラム(b)、および横2量子ビットにおける2量子ビット操作(c)

2. バイオものづくり実現に向けた細胞代謝モデリング技術

持続可能な社会の実現に向け、低炭素・資源循環型の産業への移行が求められている。再生可能資源を原料に、微生物などを用いて化学品を生産するバイオものづくりは、化学産業の脱炭素化と資源多様化に貢献する有力手段として注目されている。その実現には、細胞内の代謝経路や遺伝子を設計し機能を付与する合成生物学が不可欠である。しかし、微生物の細胞内では膨大な代謝反応が複雑に絡み合っており、目的物質を高効率で生産する設計は容易ではなく、従来は膨大な実験と試行錯誤が必要とされていた。

日立は大阪大学と共同で、十分な実測データが得られない状況でも、生産性を左右する律速点(ボトルネック反応)を予測する数理モデルを構築する手法を提案した※)。本手法では、細胞内の物質の流れを数式で表現する代謝速度論モデルを用い、類似株や培養条件に関する定量値や経験知を拘束条件として組み込むことで、各数式のパラメータ推定や解析を効率化する。これにより、開発初期段階でも確度の高いモデルを構築し、生産性向上に寄与する反応箇所を予測できる。

本手法を大腸菌のコハク酸生産系に適用し、モデルが示した律速箇所の強化で生産速度が向上することを確認した。今後は、本技術のさらなる発展を通じて、多様な対象への展開と、バイオものづくり実用化に向けた産業適用拡大をめざす。

※)竹谷友之、外:少数の実測データを用いた代謝速度論モデルの作成による大腸菌コハク酸生産株の生産律速点の同定、第77回日本生物工学会大会要旨集、p.53(2025.9)

[図2]少数の実測データを用いた代謝速度論モデルの構築 [2]少数の実測データを用いた代謝速度論モデルの構築

3. 構造化電波技術によるリモートセンシングの高度化

近年、激甚化する自然災害への対応、および広域に点在するインフラの保守点検の効率化が急務となっている。日立は、こうした社会課題の解決に向け、波面構造や偏波、位相といった電波の物理的自由度を活用する「構造化電波」技術の開発を進めている。

本技術は、電波を高度に制御・解析することで、対象物の形状、材質、動態などの多変数データを同時に取得する点に特長がある。原理検証では、波として電波と共通の性質を持つ音波を用い、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)を有する渦状波面の重ね合わせによる送受信方式の有効性を実証した。この成果により、雲に覆われた状況や夜間であっても、河川インフラの変位や船舶の動態などの衛星情報を取得できると見込まれ、現場での迅速な意思決定に寄与することが期待される。

今後は実証試験をさらに進め、衛星リモートセンシングをはじめとする幅広い分野での社会実装を推進し、持続可能で安全・安心な社会の実現に貢献していく。

[図3]構造化電波を利用した地球観測のイメージ [3]構造化電波を利用した地球観測のイメージ

4. デジタルオブザーバトリを通じたリスクマネジメントの革新

近年、世界は気候変動や地政学的リスクなど多様な脅威に直面しており、社会・経済活動におけるレジリエンス強化が一層求められている。

日立製作所研究開発グループでは、生成AI(Artificial Intelligence)を活用して企業情報のオープンデータを分析し、世界各地の製造拠点を高精度に推定する「ディープインサイト推定技術」を開発している。また、東京大学と共に設立したデジタルオブザーバトリ研究推進機構での共同研究を通じて、世界各地のリスクや法令に関するニュースを解析し、関税変動をはじめとするサプライチェーン上の多様なリスクの予兆を検知する技術の開発に取り組んでいる。さらに、AI駆動のドメイン分析により、検知した予兆に応じたリスク回避のみならず、新たな事業機会の創出を支援する「オポチュニティーシーキング技術」の開発も推進している。

今後、本研究成果の社内外での実証を進め、不確実な社会における変化に強いサプライチェーンの構築と、持続的な経済発展への貢献をめざす。

[図4]グローバル市場リスク予測と機会提案 [4]グローバル市場リスク予測と機会提案

注:略語説明 IEPPA(International Emergency Economic Powers Act)


5. デザイン細胞開発プラットフォーム上の遺伝子配列生成AIの進化

CAR(Chimeric Antigen Receptor:キメラ抗原受容体)-T細胞療法は、CAR遺伝子を免疫細胞に導入して得られるCAR-T細胞を用いた治療法である。CAR-T細胞療法は、がん細胞などの疾患原因細胞をCAR-T細胞が選択的に傷害することによって治療効果を発揮する。このため高い治療効果が期待できるが、高額な治療費や適用疾患の少なさが課題とされている。

そこで日立神戸ラボでは、CAR-T細胞療法の研究を加速するため、遺伝子配列生成AIとハイスループット細胞評価システムを組み合わせた「デザイン細胞開発プラットフォーム」を構築した。さらに、この遺伝子配列生成AIにCARを模した擬似配列を学習させることによって、CAR-T細胞の試験管内でのがん細胞傷害活性をより正確に予測することに成功した。この成果は生物学のプレプリントリポジトリであるbioRxiv※)に掲載されている。

[図5]CAR遺伝子配列生成AIの性能向上 [5]CAR遺伝子配列生成AIの性能向上

6. 操業現場を刷新するAI創発型ロボティクスソリューション

電力・資源・食糧の供給量増大や環境負荷低減などの社会課題を同時に解決するためには、インフラ保守・建設・農業などの従来現場の抜本的な生産性向上や、砂漠・宇宙など未開拓地での産業活動が求められる。これらの実現に向け、現場作業の工法とそれを遂行するロボットを、人の発想を超えて創発するAI技術の開発に取り組んでいる。

本技術では事前に、多様なロボットパーツに対し、実行可能な行動を関連付けておく。AIはその情報に基づき、与えられた作業要件を部分的に満たす行動候補を網羅的に列挙し、それらを無作為にカップリングする。これにより、各行動候補にひも付くパーツが組み合わされ、人の常識に捉われない斬新なロボットのアイデアを創出できる。電柱上機器メンテナンスを題材とした試行実験では、電柱上に追加する止まり木から作業するアーム付きドローンや、車輪付きクランプ機構で電柱を昇降するアームなどのアイデアをAIが創発できる見通しを得た。

今後は、AI創発における各機能の汎用性を高めつつ、IWIM(Integrated World Infrastructure Model)と連動させることで、一連の流れを完全に自動化する。同時に、ユースケースを定めて価値検証を進め、早期事業化をめざす。

[図6]作業工法とロボットのAI創発アーキテクチャ [6]作業工法とロボットのAI創発アーキテクチャ

7. Society 5.0の実現に向けた日立東大ラボの取り組み

日立東大ラボでは、Society 5.0スマート社会の実現を推進するアーバントランスフォーメーションプロジェクトを推進しており、2025年10月の産学協創フォーラムにて、デジタル化された仮想空間でのスマートシティを推進する「東京24区構想」を発表した。また、同ラボで推進した社会心理学に基づくウェルビーイングや、生成AIの活用による地区のニーズに応じた都市計画案の自動生成などを提言した。

エネルギープロジェクトでは、日本の地方自治体における脱炭素・持続可能性トランジションの現状と課題を明らかにすることを目的としてWeb調査を実施し、67%の自治体から回答を得た。その結果、各自治体の脱炭素に向けた取り組みは一定の進展を見せている一方、財源と人財の不足は顕著であり、住民の支持や理解の形成に苦労している課題が明らかとなった。日立東大ラボは、これらの解決に向けたガバナンス形成の必要性を報告書にまとめている。

[図7]東京24区構想コンセプト(左)、および日本の地方自治体におけるトランジション報告書(右) [7]東京24区構想コンセプト(左)、および日本の地方自治体におけるトランジション報告書(右)

8. 哲学を使った社会づくり 価値多層社会の実現

これまで、科学技術や経済成長が幸福をもたらすと信じられてきたが、戦争などの社会問題が続いている現代においてこそ、「価値」を問い直す必要がある。このことは国家レベルだけでなく、AI・ロボティクスなどの革新技術による地域での新サービスの導入においても同様であり、安全性への懸念や環境・心理への影響など、意見の違いが顕在化している。

京都哲学研究所は次の社会の姿として「価値多層社会」を提案し、その実現を社会に働きかけている。価値が向かう方向に唯一の正解はなく、人や社会が異なる方向性を持つことこそが重要であると解釈できる。その実現のため、京都哲学研究所は哲学的なモデルや概念的枠組みを提供している。

日立は革新技術や新サービスの設計・導入において、価値に伴う課題が生じ得るケースについて、これらの哲学的なモデルや概念的枠組みを参照・活用しながらイノベーションを進めていく。こうした取り組みが、対立のない共存・調和型の社会、ハーモナイズドソサエティの実現につながると考えている。

[図8]価値の多元性と多層性に基づく新しい価値観の捉え方 [8]価値の多元性と多層性に基づく新しい価値観の捉え方

注:本図は、京都哲学研究所作成の図に一部加筆を行ったものである。


9. 地球規模の環境・社会課題の解決に向けた研究開発

脱炭素化・自然気候ソリューションの開発に向けた日立とICL(Imperial College London)の共同研究センターでは、長期的かつ世界的な課題に関する探索的研究を行っている。

同センターは2024年に第1段階の研究を完了し、ネットゼロCO排出量達成およびその先に向けた初期的な知見を提供した。これらの知見は2025年5月、英国政府および産業界関係者が出席したイベントで公表・発表された。研究結果からは、ネットゼロに到達するための複数の実現可能なシナリオ、大気中のCOを貯留して洪水などの気候に起因する災害から社会を守る自然の役割、さらにCO除去に向けた多様な技術の必要性が示された。

今後は、第1段階の研究の知見を活用し、産業分野により焦点を当てることで、日立が技術開発の機会を特定し、政策立案者との連携を深めて、持続可能な社会の実現に向けた世界的リーダーとしての認知度を高めることをめざしている。

[図9]温室効果ガス排出削減と気候変動が自然・社会に及ぼす影響とその最小化に向けたICLの研究計画 [9]温室効果ガス排出削減と気候変動が自然・社会に及ぼす影響とその最小化に向けたICLの研究計画

10. 「AI時代の中国社会イノベーション」に向けた清華大学との協創

清華大学-日立未来創新連携計画は将来の中国社会の課題解決に向けたイノベーション創生をねらいとして2019年より継続して推進しているアカデミア連携の協創活動である。

中国社会の持続可能な発展へ貢献するため、2025年から新たに「AI時代の中国社会イノベーション」の創生と社会実装をめざした第三期(2025~2027)の活動を開始した。プラネタリーバウンダリー、ウェルビーイング、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に向け、重点課題であるカーボンニュートラルと健康養老にフォーカスして、生成AI・ロボティクスの活用によるイノベーション創生を通じた未来ビジョン創生、先端技術開発、価値検証と社会実装を推進していく。

今後、清華大学の最先端で活躍する研究者や、地方政府関連機構などと連携することで、中国特有の社会課題を解決し、研究成果を中国社会やグローバルに向けて発信していく。

[図10]「AI時代の中国社会イノベーション」に向けた全体構想 [10]「AI時代の中国社会イノベーション」に向けた全体構想

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