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Hitachi Global

Technology Innovation Story

Mobility Value Chain

資源・エネルギーの確保、気候変動への対応、労働力不足、都市部の過密化、インフラの老朽化など、都市やモビリティをめぐって今さまざまな課題が複合的に深刻化しています。そうした中、モビリティは単なる移動手段ではなく、人々の活動や都市の価値そのものを形づくる存在になりつつあります。今回は、現在開発が進められている新たな技術・ソリューションもご紹介しながら、モビリティのさらなる進化・発展の可能性を探ります。

2026年2月24日

快適でサステナブルな移動体験を実現していく技術・ソリューションをご紹介するコンセプト動画です。

Technology Talk

「移動」から「体験」へ

つながるモビリティが描くサステナブルな都市のかたち

世界の先進都市では、交通と都市計画を一体的に捉える試みが加速しており、AIやセンサー技術を活用した課題解決への期待も高まっています。これからの都市とモビリティにテクノロジーはいかに貢献できるのか。空間デザインの専門家の視座を交えながら、課題解決の先に見えてくる未来の姿を展望します。


古見修一

古見修一

株式会社SD 代表取締役/空間プロデューサー

1976年に株式会社SDを設立後、博覧会や展示施設、商業施設などの総合的な企画・デザイン・プロデュースを数多く手掛ける。「科学万博つくば'85」や「愛・地球博」などからミラノサローネでは3年連続受賞。2025年大阪・関西万博の「未来の都市」建築、展示演出デザインも担当。

我妻浩二

我妻浩二

日立製作所 理事
鉄道ビジネスユニットCTO - Vehicle

髙橋絢也

髙橋絢也

日立製作所
研究開発グループ
モビリティ&オートメーション イノベーションセンタ
センタ長

我妻浩二

[モデレーター]

福丸諒

日立製作所
研究開発グループ
デザインセンタ
主任デザイナー



都市計画とモビリティは切り離せない
――パリ・ミュンヘン・アムステルダム

福丸:
本日は、世界の都市が抱える社会課題に対し、交通で応えるためにはどのようなテクノロジーが必要になるのか、また、その先にどのような社会が訪れるのか、未来のモビリティについて語り合いたいと思います。

まず、長年にわたり、空間プロデューサーとして世界各国の都市を見てこられた古見さんから、現在各地でどのような取り組みが行われているか、教えてください。

古見:
私がさまざまな街を見て感じているのは、都市計画とモビリティは有機的にネットワーク化されているということです。パリ、ミュンヘン、アムステルダム、いずれの都市においても、交通は単なる移動手段ではなく、人々の活動や暮らしの質を左右する重要な存在となっています。

まず、パリ。私が年に2回訪れる理由は、世界でも特に展示施設が多い街だからです。ルーブルのような大きな施設から専門美術館、エンターテインメント施設まで幅広く、毎年新たな施設が増えていく点も魅力です。

しかしそれだけ多くの人が集まる場所であるがゆえに、都心の古い街並みを残しつつ新しい交通を導入するのは容易ではありません。そうした中、パリでは今「15分都市圏(15-Minute City)」構想をまちづくりの方針の一つとして取り組みが進められているそうです。これは、買い物、仕事、娯楽、文化、スポーツ、医療など、生活に必要な機能に自宅から徒歩15分、自転車なら5分圏内でアクセスできるようにするというもの。そのために、中心市街地における自動車交通の抑制や、歩道・自転車道の整備などが進められています。

実はこの政策に関して、パリのアンヌ・イダルゴ市長にアドバイスをしているのが、ソルボンヌ大学のカルロス・モレノ教授です。教授によれば、都市は郊外からの通勤を前提とした構造であってはならない。つまり、住む・働く・供給する・世話をする・学ぶ・楽しむ、という6つの社会機能が完結する社会ネットワークとして構築されるべきで、それでこそ豊かな心が育まれる。ちょうどパリ五輪開催の時期に訪れた際、混雑のため私も街を歩くことになりましたが、エコだし、健康にもいいし、コミュニケーションも増える。パリの街を歩きながら、「いかに速く移動するか」より、「いかに自由に楽しく活動できるか」が、人々の幸福や都市の魅力に欠かせない要素だと気づかされました。

古見修一

福丸:
パリではヒューマンスケールの街づくりによって、都市のあり方そのものが変わりつつあるわけですね。

古見:
一方、ミュンヘンは周辺に有名なドイツ自動車メーカーが集まっていることでも知られています。2021年には、モーターショーがフランクフルトからミュンヘンに移り、その新しい取り組みが話題となりました。B2B(Business to Business)向けの展示会場は従来どおりですが、市内の広場や中庭には一般向けの仮設パビリオンが建てられ、市民や観光客も無料で楽しめる内容になっています。また、市内各所を結ぶ電動リキシャ(自動二輪車)などのパーソナルモビリティサービスも無料で提供され、「IT'S ALL ABOUT MOBILITY」という2025年のテーマを肌で感じることができます。さらに、2026年には無料の自動運転マイクロバスの導入も検討されており、ミュンヘン市内の南北移動の課題解決にも期待されています。

最後は自転車優先の街として知られるアムステルダム。地球温暖化による海面上昇で街の水没が危惧されていることもあって、エコへの意識が非常に高く、公共交通や自動車の徹底的なEV(Electric Vehicle)化を図っている街です。港湾都市としてのフェリーの活用、中心市街地におけるトラム・バス・自転車の共生、それに伴う自転車置き場の設置など、多角的なモビリティのまちづくりを進めています。

この三つの都市に共通するのは、古い街並みを残しつつも、新しいモビリティの導入を都市計画と一体的に進めているということ。これからのまちづくりにおいて、交通と都市計画を別々に考えることはあり得ないわけですね。今後さらに、MaaS(Mobility as a Service)やCASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)、AI(Artificial Intelligence)などと有機的に組み合わさることで、ますます魅力的なそして環境都市になっていくだろうと期待しています。


需要は増えるがインフラは老いる
――鉄道事業者のジレンマ

我妻:
私は20年以上もロンドンに住んでいて、よくパリやミュンヘンを訪れているのですが、古見さんがおっしゃるように、街がどんどん魅力的になってきていると感じます。
一方で、魅力が増せば増すほど、さらに多くの人が都市に集まるようになります。あるレポート※1)によれば、2050年までに都市の人口は現在の倍に増えるそうです。実際に、都市間の交通量も増えていて、すでにコロナ禍以前の水準を超えています。英国の場合、週末に国内旅行に出かける人が急増していて、長距離路線の過密さが問題になっているほどです。

ところが、鉄道インフラはどんどん古くなっています。2025年に英国は鉄道開業200周年を迎えましたが、日本も150年余り。日本の場合、鉄道の総延長は2.7万kmほどありますから、鉄道事業者の中には、検測・点検車両(ドクターイエロー)の代わりに営業車にセンサーを組み込む「インサービスモニタリング」に切り替える動きがあります。英国も老朽化で架線が切れたりといったトラブルが度重なる中、同じ方向に進みつつあります。さらにもう一つ問題となっているのが、旅客数が伸びていて、保守・点検の頻度を上げなければならないのに、人財が確保できないこと。夜勤でのメンテナンスの仕事に人が集まりにくくなっているのです。そうしたことから、鉄道事業者のお客さまも、保守・点検の省力化に資するセンサーやカメラの活用を検討されています。

我妻浩二

福丸:
設備も年数を重ねる中、現場の担い手も限られてきていて、従来の保守の進め方を見直す必要が出てきていますね。

我妻:
エネルギー消費の問題もあります。エネルギーコストが高騰している今、できる限り消費電力を下げたい、さらには環境への配慮の観点から、部品交換などの頻度を見直して最適化したい、という声もあります。

例えば、重要な部品にベアリング(軸受)がありますが、破損すると重大な事故につながりかねないため定期的に交換が必要です。英国の路線で長い距離を走る車両では2年に一度、約6,000個のベアリングをすべて交換していました。ところが、センサーをつけて解析したところ、状態の悪いものはたったの2個しかありませんでした。センサーを活用し常時状態監視することで、CO2もメンテナンスコストも大きく減らすことができた、というわけです。センサーやカメラを活用すれば壊れる前に検知できるので、信頼性も大きく向上します。

このように、鉄道事業者は今さまざまな課題に対するソリューションを求めていて、成果も出てきているのです。

福丸:
鉄道事業者が抱える複雑な問題解決に対し、AIを活用する期待も高まっていますよね。

髙橋:
近年、フィジカルAIといった言葉も聞かれるように、AIを搭載したロボットでできることが増えてきました。リアルタイムにデータを学習するとか、複雑な動きにも対応するとか、さまざまなニーズに応えられるようになってきています。とはいえすべての作業をロボットに任せるわけにはいきませんので、人の作業も含めて、いかに全体のオペレーションを効率化できるかがポイントになります。絶対に見落とせないクリティカル・ポイントについては最終的には人間が、それ以外のところはロボットに任せるといったように、人とロボットが役割分担をしながら、スムーズにオペレーションをしていけるような協調設計がカギを握ります。

※1) World Bank Group: Urban Development Overview

髙橋絢也

都市交通の自動運転化で、暮らしは豊かになる

福丸:
新しいモビリティの導入に際して、何が重要だと思われますか。

我妻:
交通を利用するお客さまにとって、もっとも重要なのは信頼性です。そして、環境への配慮があるかどうか。冒頭で古見さんからミュンヘンのお話がありましたが、ミュンヘンでは、街を走るタクシーの多くを日本車が占めているような印象を受けました。その理由をドライバーさんに聞いたところ、やはり信頼性と燃費の良さだと言います。

そう考えると、やはりモビリティにとって最も重要なのは、信頼性と環境への配慮なのでしょう。そうした観点から自動運転のメトロも増えていますし、私たちもトラムの自動運転化に注力しているところです。

髙橋:
自動運転こそ信頼性が極めて重要になりますね。トラムなどの公共交通と自動車、自転車、歩行者の安全な往来をいかに担保するか。特にトラムは、歩行者や一般車両と同じ道にある軌道に沿って運行するため、何か障害物があった際には横によけることができず、絶対に止まらなければなりません。また自動車よりも制動距離が長いため、より早く高精度な検出技術が必要になります。

古見:
サンフランシスコで自動運転のタクシーに乗った際、正直なところ不安だったのですが、ブレーキのスムーズさや衝突回避の素早さなどは人間より優れていて感心しました。アトラクションとしての楽しさもあります。

我妻:
将来的に、トラムやメトロ、タクシー、自動車、自転車など、すべてのモビリティがネットワークにつながり、最適にコントロールされるようになれば、安全配慮のための心理的負担が軽減され、ストレスフリーな移動が可能になるはずです。それこそが、人々が気持ちよく幸せに暮らすための重要なポイントになるでしょう。

もう一つ現在欧州では環境への配慮として、蓄電池駆動トラムの要望が非常に大きくなっています。その最大の理由は、古い架線や電線が、美しい街並みの景観を損なうからだそうです。

今後、都市化が加速し、さらに人口が増えるとしたらなおのこと、スムーズな移動や環境への配慮は必須であり、公共交通の自動運転化が極めて重要なソリューションになるだろうと思います。

福丸諒

「走るセンサー」としての自動車の未来

我妻:
先ほど、鉄道に関して、営業車に状態監視のためのセンサーを組み込む「インサービスモニタリング」の話をしましたが、これは自動車交通にも有効です。例えば、ロンドンではポットホールという道路の劣化でできる穴が問題となっていて、穴に落ちてホイールが破損したりタイヤがパンクしたりした際に、それを自治体が補償するため、財政を圧迫するまでになっているのです。自動車でインフラの状態監視ができれば、事前に兆候を検知して対応できるようになります。

古見:
先日、あるタイヤメーカーのレポートを読んでいたら、今やタイヤにも多数のセンサーが積まれていて、単にパンクを検知するだけでなく、気候状況をセンシングし「道を読む」ことで安全走行するそうです。また、車メーカーもボンネット下の路面状況や起伏を読んで、多少の段差であれば衝撃を吸収できるという。それがさらに車同士でつながれば、前を走る車の履歴を基に道の状態が予測でき、より安全に走行できるようになりますね。

我妻:
シート(座席)センサーも進化していて、あと数年もすればシートの生地に量子センサーが埋め込まれるかもしれません。ドライバーの生体情報やブレーキをかけやすい場所がより高い精度で分かるようになって、渋滞や事故を未然に防いだり、インフラをより長持ちさせたりするために生かせるだろうと期待しています。

髙橋:
ただそのためには、それぞれの自動運転車を全体として管理するプレイヤーが必要であろうと思います。バラバラに自動運転をするだけだと、かえって渋滞やトラブルを引き起こしかねませんし、自動運転になって皆が道路の同じ所を走るようになると轍ができやすくなって道路の劣化が早まると考えられています。この車は少し右に寄せる、次は左に寄せるといったように、インフラ全体を包括的に制御するプレイヤーが必要なのです。

また、センサーやカメラの精度向上の一方で、標準化も求められるでしょう。道路に穴が空いていることが分かっても、カメラから得られた情報にメーカーごとにばらつきが大きいと解析には使用できません。さらに、自動運転車のデータの所有権が誰に帰属するのかなど、法的な整備も必要になります。

古見:
なるほど、自動運転用の共通基盤なり、より上位レイヤーでの管理なりが必要になるわけですね。

我妻:
まさにAIを活用して社会インフラの課題を解決するというのは、日立のHMAXTM※2)by Hitachiの大きなテーマでもあります。そもそも道路が穴だらけだったら、自動運転どころではないですからね。鉄道も同様で、信頼できるインフラがないと自動運転は成立しません。広域な都市交通の膨大なデータを集めて、意味のある情報に変え、最終的に保守・メンテナンスに資するようなさまざまな予測に使っていく。そのための基盤整備をいかに進めていくか、というのが最大の課題になります。

髙橋:
その一つの先進的な取り組みとして、現在、日立市と日立グループによる次世代未来都市共創プロジェクトにおいて、「公共交通のスマート化」を進めています。これは、デジタル技術を活用して交通流や人流を見える化し、施策に反映して、それによって街がどう変わったかを検証するサイクルを回す試みです。こうした個別の成果を、いかにスケールさせていくかということも考えておかなければなりません。

古見
都市ごとに色が違いますからね。その中でどう共通項を見出して、その都市なりの魅力を引き出しながらスマート化につなげていけるかがポイントになると思います。

※2)
AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群のこと。フィジカル・デジタル両方のアセットから得られる膨大なデータと、日立が長年培ってきたドメインナレッジ、先進的なAI技術を組み合わせて、世界中に新たな価値をもたらすソリューションを提供。HMAX Mobilityでは、よりスマートで最適化された交通システム、自動運転、IoT(Internet of Things)対応型のモビリティの実現をめざしている。


人々の自由な活動を最大化させる都市へ

福丸:
ここまで、現状の都市が抱える課題解決に資するさまざまなソリューションやテクノロジーについてお話しいただきました。最後に、こうした課題解決の先に、こんな移動体験ができたら素敵だなという、未来の交通像についてお聞かせください。

古見:
冒頭でもお話しましたが、やはり都市というのは人々の自由な活動を最大化させるためにあると思います。そのためには、住む、働く、学ぶ、交流するといった都市のすべての要素がつながるデザインであるべきで、都市計画と交通を分けて考えることはもはやできません。そして、これからのモビリティは、単なる「移動」ではなく、活動としての「体験」の要素がより強くなっていく。それを支えるのが、センシングや自動運転などの先端のテクノロジーであり、それらがつながることで自律的に最適化されて、人々も幸せになる。今日は図らずも、私自身が描く未来の都市像を、皆さんとの対話の中で確認でき、答え合わせができました。

福丸:
交通の目的が、モノや人をただ運ぶことではなく、人の活動そのものを最大化することにある。その前提を支えるテクノロジーの輪郭が、少しずつ見えてきましたね。

我妻:
古見さんもおっしゃったように、どんな移動体験であれば、人々の幸せを最大化できるかと考えたときに、やはりストレスフリーな移動だけでなく、エンターテインメント性がプラスされることが重要だと思っています。ただし、そのためにはしっかりとしたインフラが不可欠です。デジタルの力を使ってインフラのロバストネス(堅牢性)を高め、データを活用して人々の幸せに寄与していく。それこそが、HMAXの使命だと、改めて認識しました。

髙橋:
人の身体と同じで、都市や街も停滞すると不健康になります。流動性があればこそ街も活性化するし、成長もしていくわけですね。その流れをつくり出すうえで、モビリティは非常に重要な要素です。ただし、人間の力だけで流れをつくり出すのには限界があるため、高い信頼性を備えた自動化が不可欠です。そこにわれわれも貢献していきたい。流れがあれば街もどんどん変わっていくし、都市の色も変わっていく。その変化を楽しみたい、そんな未来像を思い描きました。

福丸:
未来の都市のモビリティに関して、さまざまにイメージが膨らみました。皆さん、本日はありがとうございました。

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