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Hitachi Global

研究開発

基盤

2026年2月24日

研究開発


1. セキュアであり続けるためのAI for Security

近年、IoT(Internet of Things)製品の脆弱性を標的としたサイバー攻撃が増加しており、製造業各社には、攻撃リスクを考慮したライフサイクル全体にわたる製品の安全性確保が求められる。特に、欧州CRA(Cyber Resilience Act)などのセキュリティ法規の制定により、製造業では製品やサービスに含まれる脆弱性に迅速かつ確実に対処することが要求されている。脆弱性対処においては、製品が影響を受ける条件を脆弱性情報に基づいて整理するセキュリティと、製品に関する知見が必要となる。しかし、多くの製造業では、製品セキュリティの知見や人財の不足が顕著であり、調査の経験が浅い担当者にとっては脆弱性情報の理解自体が難しく、調査に時間が掛かるという課題がある。

これに対し、日立は生成AI(Artificial Intelligence)を用いて、IoT製品・システムの脆弱性対処に必要なセキュリティの知見を補う「脆弱性分析サービス」を開発した。これにより、製品が脆弱性の影響を受ける条件をチェックリストとして提示することを可能とした。また、本技術を用いることで、脆弱性の影響に関する調査時間を従来比で約45%削減し、効率的な脆弱性対処が可能となった。

これらの技術の導入により、脆弱性対処を迅速に行うことで、顧客の事業継続性の向上に貢献していく。

[図1]脆弱性分析サービスの概要 [1]脆弱性分析サービスの概要

2. セキュリティ・トラストSecurity & Safety for AI

ミッションクリティカル分野へのAI適用に向け、ナレッジ漏洩や不適切な指示を起こさない、安全かつ高信頼なAIを実現する二つの技術を開発した。

(1)機微な事例データを秘匿したまま企業間の共同利用を可能とする「秘匿RAG(Retrieval-augmented Generation)」技術
生成AIの出現により、RAGに蓄積する企業内事例データからナレッジを抽出し、各種業務に活用することが容易になった。一方、発生頻度が稀ではあるが重大な意味を持つ、ミッションクリティカルな事故や失敗の事例の収集は困難である。RAGによる企業間事例共有は少事例対策になり得るが、この種の事例は一般に機密性が高く、他社への開示が難しい。そこで、ナレッジを暗号化したまま、ベクトルストア上で類似検索を可能とする秘匿RAG技術を開発している。

(2)AI Safety Architecture
AIをミッションクリティカルな現場に安全に適用するための全体アーキテクチャと複数の安全技術を開発した。入力情報の信憑性判定で不確かな入力データを排除し、冗長系によるダイバーシティで判断の信頼性を向上したうえで、さらにOT(Operational Technology)ナレッジを活用した安全分析を行うことにより、不正な出力を抑止する構造を実現している。これによりAIを搭載したシステムの安全性を高めることを可能にした。

[図2]Security & Safety for AIの概要 [2]Security & Safety for AIの概要

注:略語説明 LLM(Large Language Model)


3. OTセキュリティテストAI

近年、制御システムやデバイスなどのOT分野をねらったサイバー攻撃や、同分野における脆弱性の発覚が相次いでいる。このため、OTデバイスやシステムの出荷や実稼働の前に、網羅的で厳格なセキュリティテストを実施する必要性が増している。しかし、OT分野はIT分野と比較してセキュリティに関する知見が少なく、仕様や通信プロトコルも独自性が強いため、信頼性が高いテストの実施が困難であった。

そこで、日立はAIを活用したOT向けセキュリティテストの自動化技術の研究開発を進めている。本技術では、テスト対象のシステム・デバイスをデジタルツイン化することで、メモリなどの詳細な内部状態を取得する。次いで、対象の仕様書や動作手順書をAIが学習し、テストケースを生成・実行する。内部状態の変化を継続的に観測しながらテストケースを繰り返し再生成することで、人手を介さずに網羅的なテストを実施できる。本技術により電力・鉄道といった重要インフラの安全性向上に貢献していく。

なお、本成果の一部はNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業「経済安全保障重要技術育成プログラム/先進的サイバー防御機能・分析能力強化(JPNP24003)」によるものである。

[図3]OTセキュリティテストAIのフレームワーク [3]OTセキュリティテストAIのフレームワーク

4. モノづくり・サーキュラーエコノミー フィジカルAI駆動分解・再生プロセス

循環経済の実現には、経済合理性のある資源循環が不可欠であり、回収品価値の保全と、分解・再生プロセスの効率化が必要となる。日立では、丁寧かつ高効率なロボット分解と、分解品の計測・診断に基づく再生プロセスの最適化技術を開発している。

回収品の状態はそれぞれ異なるため、分解には適切な力加減の動作が要求される。日立はマルチモーダルデータの活用により、複雑で繊細な自動化を実現するフィジカルAIを得意としており、今後分解ロボットに適用していく。また、分解品の再生可否の診断に向け、3D(Three Dimensions)計測でキズなどの損傷を5 μmの精度で抽出する技術を開発した。さらに、損傷が大きい部品は、めっきにより機能を回復させ、可能な限り「素材」としての再生ではなく、価値の高い「部品」として、少ないエネルギーで再生させる。

今後、実製品を対象としてフィジカルAI駆動の自動分解と価値診断、再生技術を開発・実装し、経済性と環境性を両立した資源循環事業の創成に貢献していく。

[図4]スクリュー圧縮機を想定したフィジカルAI駆動再生プロセス [4]スクリュー圧縮機を想定したフィジカルAI駆動再生プロセス

5. 生成AIが革新するDesign for X

製造業を取り巻く環境は急激に複雑化しており、多様な要求に対応したモノづくりが求められている。製品設計においては、製品の機能や性能のみならず、製造性、環境性、保守性などのさまざまな要素(X)を設計段階で考慮するDesign for Xが求められている。そこで、日立は生成AIと3D形状学習技術を用いて、これを大幅に効率化する技術を開発した。

ユースケースの一つである設計ルールチェックでは、例えば「穴と板端の距離が板厚の2倍以上」といった形状に関するルールを3D CAD(Computer Aided Design)モデルが満たしているかどうかをチェックする。まず生成AIによりチェックするべき設計ルールを設計文書から抽出し、次にチェック実行用のプログラムを自動生成する。この際、3D形状処理のための独自の関数ライブラリを活用することで、ある程度複雑な設計ルールにも対応が可能である。また、過去のCADデータを学習した3D形状学習モデルが3D CADモデルの特徴を認識することで、BOP(Bill of Process:製造プロセス)や、製造時CO2排出量の予測など、多様なDesign for Xの実現とモノづくりの生産性向上に貢献する。

[図5]生成AIと3D形状学習技術を活用したDesign for Xの概要 [5]生成AIと3D形状学習技術を活用したDesign for Xの概要

注:略語説明 BOM (Bill of Material)


6. CE社会のありうる将来シナリオの深耕とありたき将来の探索

日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボでは、 CE(Circular Economy)社会の実現に向けたグランドデザインのテーマにおいて、「ありうる将来」と「ありたき将来」の策定を推進してきた。まず、未来シナリオシミュレーションを活用し、CEに関連する事象の因果関係を分析することで、九つの「ありうる将来」シナリオを導出した。その中から、循環を促進するルール・技術・人のバランスが良好で、CEに関与する人々の努力と見返りが一致しているシナリオを選定した。

次に、このシナリオの実現の鍵となるルールと技術について、有識者との議論を通じて必要な要件を抽出した。これらを経て、私たちが意思を持ってめざしたい「ありたき将来」を、「人々の多様な価値観に対し、社会の仕組みが寄り添い、循環を促す社会」と定義した。さらに、具体的なイメージを持つために、この将来を支える社会の仕組みの事例を描き出した。今後、「ありたき将来」への移行を促すインセンティブやそこに至るロードマップ、具体的な移行の要件を明らかにしていく。

[図6]ありたき将来を支える社会の仕組みの例 [6]ありたき将来を支える社会の仕組みの例

7. 製造現場のフロントラインワーカーを支援する計測・インフォマティクス技術

製造業では市場の変化への迅速な対応が求められ、製造ラインの早期立ち上げやプロセス効率化が課題となっている。これに対し、日立製作所および株式会社日立ハイテクは、製造プロセスデータベースとAIを活用し、現場のフロントラインワーカーを支援するプロセス改善ソリューションの実証を進めている。

高精度予測のためには大量の学習データが必要という従来の課題に対し、中間工程品に着目して、計測情報からの構造特徴量抽出とインフォマティクスを融合することで、少量のデータで予測精度を向上させることに成功した。例えば、LIB(Lithium-ion Battery:リチウムイオン電池)製造への適用においては、電極シート表面をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で観察し、画像解析で得た構造特徴量を説明変数として機械学習に用いることで、製造条件を用いた従来法よりMAE(Mean Absolute Error)が減少した。また、説明変数の影響度の可視化により、モデル説明性も向上した。本技術が製造ライン立ち上げ時の試行錯誤や作業負荷の軽減に寄与することが期待される。

[図7]LIB製造における計測・インフォマティクスの適用事例 [7]LIB製造における計測・インフォマティクスの適用事例

注:略語説明 SHAP(Shapley Additive Explanations)


8. AI協働時代における「リチュアル」を活用した「働きがい」の再設計

AIやロボットとの協働は、業務効率化や品質向上をもたらす一方で、人の試行錯誤の機会を奪い、プロセスを通じて得られる「やりがい」や「主体性」を低下させるリスクをはらんでいる。これに対し、日立製作所研究開発グループは、単なる効率性の追求にとどまらず、人の「働きがい」を中核に据えて業務を再定義する。

これまで、日立は人の価値観をひも解く「エスノグラフィ」、望ましい未来を描く「ビジョンデザイン」、個人の意識や行動を変容させる「行動のデザイン」など、人間中心の価値創出手法を確立してきた。

今後、AIとの協働で個の効率化が進む中、自己効力感や帰属意識、関係構築や合意形成の機会が失われると想定される。そこで、個人の内省を促し、組織へのエンゲージメントを高める「リチュアル(意図的な仕掛け)」を取り入れ、個人の意思と組織のビジョンの接続を促す体験をデザインする。これにより、一人ひとりが主体性と創造性を最大限に発揮し、AI協働時代における働きがいを実感できる業務プロセスの実現をめざす。

[図8]「効率化」のジレンマを超えるAI協働時代の「働きがい」のデザイン [8]「効率化」のジレンマを超えるAI協働時代の「働きがい」のデザイン

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