ページの本文へ

Hitachi Global

Technology Innovation Story

Technologies for the Electricity Era

気候変動の深刻な影響が世界各地で広がる中、現代社会の根幹を担う電力の需要は増加の一途をたどっています。増え続ける電力需要に応えながら脱炭素社会を実現するには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。ここでは、電力を「つくる」、「配る」、「使う」の三つの観点から、日立のめざす将来のエネルギーシステムと、発電・送配電からインフラ構築・保守にいたるさまざまな関連技術をご紹介します。

2026年7月30日

電力需要の増加に応え、脱炭素社会を実現する技術・ソリューションをご紹介するコンセプト動画です。

Technology Talk

賢く供給し、賢く使うエネルギーの未来

脱炭素と安定供給を両立するエネルギーシステムの実現へ

国際情勢の緊迫化を受けて世界のエネルギー供給網が揺らぐ中、電力自由化、脱炭素化、産業分野の電化・デジタル化による需要の拡大などにより、エネルギーシステムのあり方は大きな転換点を迎えています。ここでは、エネルギー分野のキーパーソンの対話を通じ、社会を支えるエネルギーシステムの安定的な維持・発展に必要な技術や取り組みについて探ります。


大橋 弘

大橋 弘

東京大学 副学長

専門は産業組織論・エネルギー政策・競争政策。総合資源エネルギー調査会、電力・ガス取引監視等委員会等の各種委員会委員。円城寺賞・日経図書文化賞(日本経済研究センター)・石川賞(日本経済学会)等受賞。

Gerhard Salge

Gerhard Salge

Hitachi Energy CTO

馬場 淳史

馬場 淳史

日立製作所
原子力ビジネスユニット
CTO

山内 晋

山内 晋

日立製作所
研究開発グループ
環境・エネルギーネクサスイノベーションセンタ
部長

伊藤 智道

[モデレーター]

伊藤 智道

日立製作所
研究開発グループ
環境・エネルギーネクサスイノベーションセンタ
主管研究員



エネルギーシステムの民主化がもたらす新たな課題

伊藤:
私たちの日々の生活や企業活動を支えるエネルギーシステムは、カーボンニュートラルの達成に向けて大きな変革期を迎えています。大橋先生は産業組織論やエネルギー政策がご専門です。現在のエネルギーを取り巻く状況や求められる制度、政策や市場のあり方についてご意見を伺えますでしょうか。

大橋:
電力改革が進んだ国々は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の拡大と電力自由化による「エネルギーシステムの民主化」を背景とした共通の課題に直面しています。

具体的に日本では、2012年にFIT(Feed-in Tariff:固定価格買取)制度が始まり、東日本大震災の影響もあって再エネの普及割合が一気に高まりました。ただ、変動性再エネの比率が高いため、電力需給を一致させる難易度は上がっています。加えて2020年に電力自由化が完了し、発電と小売が法的に分離されたことで、二つの課題が生じています。

一つは、電力投資についてです。従来の発電~送配電~小売の垂直一貫体制では、長期的な視点で必要量を織り込んだ投資計画を立てることができましたが、電力自由化後は安定供給を制度や規制で担保する構造となりました。これがうまく機能しないと、投資不足に陥ってしまいます。また、市場支配力に基づく投資抑制にも注意が必要です。

もう一つは、多様なステークホルダーが関与する状況下での協調の確保です。民間の創意工夫を促しつつ、効率的に再エネを拡大し、自由化のメリットを最大化するには、制度・規制をうまく設計して活用することが必要です。

伊藤:
自由化によって市場メカニズムが導入された電力分野で、健全な競争が成立するにはどのような条件が必要でしょうか。

大橋:
電力システムの強化には、「効率性」、「脱炭素」、「安定供給」という三つの軸があります。市場競争は効率性を高めますが、効率的な資源配分と安定供給に向けた投資の促進は自律的には両立しないため、市場を補完する制度設計が各国共通の課題です。日本の「容量市場※1)」をはじめ各国で容量メカニズムが導入されていますが、わが国ではkWhも計画的な超脱が必要であり、発電容量(kW)と発電量(kWh)の双方において整合性を取ることが非常に難しい課題だと感じています。

従来の電力システムは、大規模投資によって送電網を整備することで安定供給を実現してきました。これに対し、未来の電力システムに求められる「フレキシビリティ」、「レジリエンス」、「ロバストネス」という三つの要素を確保するには、AI(Artificial Intelligence)を含めたデジタル技術を電力システムの中に取り込むことがポイントになるでしょう。

※1)4年後に調達するべき電力の目標容量に基づき、「4年後の電力の供給力」を市場で取引する制度。発電事業者が提供する電源の容量を確実に確保するため、小売電気事業者が対価を支払うことで、発電・小売事業者双方の事業運営と電力供給の安定化を図る。

大橋 弘

複雑化する電力系統を支えるパワーエレクトロニクスとデジタル制御

Salge:
従来の電力システムには、調整可能な発電出力と容易な需要予測という利点があり、送配電を介した電力の潮流はほぼAC(Alternating Current:交流)による一方向でした。一方、ACとDC(Direct Current:直流)が混在する新しい電力システムでは、出力変動が大きい大小さまざまの発電設備が増加し、消費者がプロシューマー(電力の生産消費者)になることで、潮流は双方向化しています。

大橋先生が指摘された主要な課題への対処には、パワーエレクトロニクスとデジタル制御技術が不可欠です。これらを組み合わせることで、HVDC(High Voltage Direct Current:高電圧直流送電)が組み込みこまれたACシステムにおける潮流を制御できます。さらに、バッテリーやスーパーキャパシタなどの蓄電デバイスを用いることで、高い電力品質を実現できます。

GFM(Grid-forming)インバータ※2)などに用いられる次世代のデジタル制御技術は、通常時はもちろん障害発生時にも電力系統の安定性維持に寄与します。また、電力系統の監視・制御に用いられる最新の監視制御・データ収集(SCADA:Supervisory Control and Data Acquisition)システムは、最適化アルゴリズムと自動化技術を駆使して高品質な電力供給を維持します。こうした技術によって電力系統の大規模化・複雑化に対応し、エネルギーシステムの信頼性を確保できると期待しています。

伊藤:
HVDCは大容量電力の長距離・高効率送電を担う重要な技術ですが、再エネが主要電源となる中で、それ以外にも求められる役割はあるのでしょうか。

Salge:
HVDCは、有効電力の正確かつ高速な制御に加え、無効電力の供給も可能であり、STATCOM(Static Synchronous Compensator:静止型同期補償装置)と同様、連携点ごとの電力系統の安定性向上にも貢献します。半導体スイッチング素子、機器設計、システム構成といった基盤技術の進歩によってHVDCシステムの小型化が進み、設置スペースに限りのあるデータセンターや新たな産業拠点、大都市などにおいて、超小型HVDC送電システムの導入が期待されます。

伊藤:
新技術を系統に導入するうえで、系統運用者との連携の他に必要な要素はありますか。

Salge:
市場メカニズムと同様に、投資インセンティブと政策・制度的枠組みが重要です。火力発電などの回転機から、蓄電を組み合わせたインバータ方式へと発電が移行するにつれ、系統蓄電は系統安定性の維持に重要な要素として、ますます重要視されるようになります。

ところが国によっては、系統運用者が自社の蓄電容量を構築する自由度が制限されており、エネルギー取引業者になることを認められないケースがあります。将来にわたって信頼性の高い電力システムを維持するには、緊急事態に備えて予備容量を確保する必要性を十分に認識するなど、市場メカニズムと系統の技術的・物理的な特性を適切に組み合わせたビジネスモデルやインセンティブ、規制・制度が必要です。

※2)回転発電機のように系統電圧を形成できる制御ソフトウェアを搭載したインバータ。

Gerhard Salge

需要側の調整力で、電力システムのレジリエンスを高める

伊藤:
電力は「つくる(発電)」、「配る(送配電)」、「使う(需要)」という三つの要素で成り立っています。この内「使う」の観点で求められることは何でしょうか。

山内:
複雑化する将来の電力系統では、デジタル制御技術による「配る」技術の高度化に加え、「使う」側である需要サイドが賢くなり、系統と協調することが重要です。つまり、「混雑(送電線の過負荷)」、「需給ギャップ」、「周波数安定化」、「電圧安定化」という電力系統の課題に対して、需要家から系統へ必要な調整力サービスを提供できるようになることが重要です。

「混雑」に対しては、蓄電池の活用、データセンターの負荷シフト、EV(Electric Vehicle)充電制御、工場稼働や家電使用のスケジューリングによって電力需要を時間的にずらし、混雑区間の潮流を減らすことが考えられます。

「需給ギャップ」に対しては、ヒートポンプや蓄熱、水電解装置、産業用の蒸気・空気圧使用などを活用して、再エネ発電が増えるときには消費を増やし、発電できないときには抑える再エネ追従型の可変需要をつくることで系統全体の運用コストを下げられます。

「周波数安定化」にはインバータ機器による調整、蓄電池・水電解装置などの稼働により、需要側の応答を「合成慣性」として運用に織り込むことで対応できます。

最後に「電圧安定化」には、需要側にGFMインバータを導入し、無効電力を自律的に提供する方法が活用できる可能性があります。

系統増強や設備の導入には巨額の投資と時間を要しますので、需要側を調整力として系統運用に組み込むことが、過剰な投資を避けつつ系統安定性を保ち、出力抑制を減らして、社会全体でコストを抑える鍵になるでしょう。

日立エナジーが強みとするデジタル技術と系統運用技術、HVDCやSTATCOMなどの供給側安定化装置、そして需要側の柔軟性を同じ運用レイヤーで統合できれば、系統全体のレジリエンスと投資効率は一段と高まります。「供給を賢くする」と同時に「需要を賢くする」という世界観を広げていきたいと思います。

山内 晋

伊藤:
需要家はどこまで能動的な存在になれるとお考えでしょうか。

山内:
電力系統の安定化を需要側に頼り切ることはできません。需要は人々の日常生活を支えるものであり、需要家は基本的に利便性を損なわない範囲で経済合理性に基づいて動きます。したがってクリティカルな場面では需要家の応答に頼るのではなく、機器のパフォーマンスなど物理現象に頼るべきと考えます。系統安定性を維持するには、物理現象・経済合理性・規制と制度の観点を総合的に考える必要があります。

大橋:
系統安定化への需要家の参画を促すうえで、課題になるのは計量です。発電側は発電した分だけ計量すればいいのですが、需要側が「どれだけ減らしたか」はベースラインによって左右されますので、その設定が重要になります。

また、需要家が直接グリッドに参加するのは難しいため、需給調整を行うアグリゲータの役割が大きくなります。日本でもアグリゲートビジネスは拡大していますが、企業などの需要家がデマンドレスポンスに参加する理由は、金銭的インセンティブだけではなく、日本全体の電力需給の安定に貢献しているという意識も大きいのではないかと考えます。「公共善」を支えているという意識を広げることが、需給調整に参加する需要家の拡大につながるでしょう。

また需給調整では、蓄電池だけでなく蓄熱や蓄圧の技術にも注目しています。特に蓄圧は日本企業に技術的な強みがありますので、産業波及効果の観点からも活用を考えるべきと思います。

伊藤 智道

持続可能なエネルギーを支える鍵は原子力と人財育成

伊藤:
ここまでの議論から、課題解決に必要な技術は既に多数存在しているように感じられますが、馬場さんは中期的な技術課題についてどのようにお考えでしょうか。

馬場:
人々の生活と社会発展を支えるエネルギーには、安定かつ安価であることが求められます。超スマート社会(Society 5.0)の実現に向けたビジョンの創生・発信を通じて社会課題の解決に取り組む日立東大ラボでは、2050年のカーボンニュートラル実現へのトランジションシナリオを検討していますが、日本のエネルギー基本政策であるS+3E(Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment)の観点で最もバランスが取れているのは原子力活用シナリオであり、安全を最優先にしつつ原子力を活用していくべきと考えています。世界的にも原子力発電への期待が高まっていますが、日本ではまず、電力需要の見通しに合わせて既設プラントの再稼働を進め、中長期的には新設・増設も計画していく必要があるでしょう。

日立はGE Vernova Hitachi Nuclear Energyと連携し、カナダ初となるSMR(Small Modular Reactor:小型軽水炉)の建設プロジェクトを進めています。また、核燃料サイクルの実現に向けて検討してきたRBWR(Resource-renewable Boiling Water Reactor)や、革新的小型モジュール炉PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)など、次のイノベーションに向けた開発も継続が必要です。次世代のエネルギーとして期待される核融合についても、核融合実験炉「ITER」の建設をはじめとする国際プロジェクトやスタートアップ各社に技術面で協力し、その実現に貢献していきます。

ただ、エネルギー業界の世界的な人財不足が課題となっています。日本では特に原子力分野で教育基盤が縮小傾向にあり、技術レベルの維持強化が今後の重要なテーマと言えます。

大橋:
人財不足は、多くの業界に共通する大きな課題です。その解決に向けては、個々の企業が待遇改善や魅力の訴求などで人財獲得に取り組むことも必要ですが、業界全体やアカデミア、政府として検討するべきこともあります。

一つは、規格や要求仕様の標準化によって業界内の人財の流動性を高めること。もう一つは、調達や需要の長期見通しを示すことで企業が人財への投資をしやすくすることです。

Salge:
エネルギー分野の変化に対応できる新たなスキルを持つ人財が、これまで以上に求められています。機器の設置に必要なスキルに加え、電力システムとその仕組みを理解し、AI、デジタル技術、パワーエレクトロニクスなどに精通した人財、各国の市場に適した新しいビジネスモデルを設計・実装できる人財も必要です。また、国境を越えた電力網の連携に伴い、各国の制度を理解し、適切な国際契約を策定できる規制と制度に長けた人財も欠かせません。こうした人財の育成は社会全体の課題であり、特に教育分野ではカリキュラムの見直しが必要となるでしょう。

山内:
電力システムにおいては、系統運用者、需要家、レギュレーションという三つの観点が重要です。系統運用者は公共性を持つ営利企業であり、一方で需要家は自身の利益最大化をめざします。レギュレータは、その関係が適切に機能するよう制度を設計する。こうした関係性を理解し、ソリューションを仕様に落とし込める人財の必要性を感じています。

馬場 淳史

未来のエネルギーシステムを支える技術・制度・人財

伊藤:
脱炭素電源の比率がさらに高まる将来のエネルギーシステムは、適切な市場・ルールの下で発電、送配電、需要家がリアルタイムにデジタルでつながり、協調するシステムになると予想されます。その実現に向けては、供給、需要、技術、制度、そして人財育成を統合的に考えることが必要なのだと感じました。本日の議論を振り返って、皆さんはいかがでしたでしょうか。

大橋:
エネルギーシステムの民主化には、よい側面もあれば、そうでない側面もあります。だからこそ、技術とそれを受け入れる規制や制度をしっかり結び付けてよりよい電力システムをつくっていくべきであり、つくっていけると確信しています。

Salge:
持続可能で安価かつ安全な、電力を中心とした未来のエネルギーシステムを構築することが、社会全体の大きな課題であるという認識を、今日の議論で共有できたと思います。既存技術を活用し、必要に応じて新たな技術を開発することでインフラを増強するとともに、日立エナジーは技術だけでなく、新たなビジネスモデルや高度なサービスなどの面からも、未来のエネルギーシステムの実現をめざします。

山内:
電力、熱、データといったマルチドメインの要素の結合と、デジタル、そしてAI技術の重要性を改めて強く認識しました。これらの要素を意識して、今後の研究開発をリードしていきたいと思います。

馬場:
持続可能な社会の実現には、エネルギーの制度・政策、人財育成を含めた包括的な取り組みが必要ですね。エネルギーを「つくる」、「配る」、「使う」のすべてにおいて将来を見据えた技術の開発とその社会実装を進め、エネルギーシステムのあるべき姿の実現に向けて、One Hitachiで取り組まなければならないと思いを新たにしています。

伊藤:
未来のエネルギーシステムの構築には、中期的視点で関連ステークホルダーを巻き込んで議論を進めていく必要性があります。多様なお客さまとつながりを持つ企業として、日立はそうした議論の場を自らつくっていく存在でありたいと思いました。本日はありがとうございました。

シェアする: