Salge:
従来の電力システムには、調整可能な発電出力と容易な需要予測という利点があり、送配電を介した電力の潮流はほぼAC(Alternating Current:交流)による一方向でした。一方、ACとDC(Direct Current:直流)が混在する新しい電力システムでは、出力変動が大きい大小さまざまの発電設備が増加し、消費者がプロシューマー(電力の生産消費者)になることで、潮流は双方向化しています。
大橋先生が指摘された主要な課題への対処には、パワーエレクトロニクスとデジタル制御技術が不可欠です。これらを組み合わせることで、HVDC(High Voltage Direct Current:高電圧直流送電)が組み込みこまれたACシステムにおける潮流を制御できます。さらに、バッテリーやスーパーキャパシタなどの蓄電デバイスを用いることで、高い電力品質を実現できます。
GFM(Grid-forming)インバータ※2)などに用いられる次世代のデジタル制御技術は、通常時はもちろん障害発生時にも電力系統の安定性維持に寄与します。また、電力系統の監視・制御に用いられる最新の監視制御・データ収集(SCADA:Supervisory Control and Data Acquisition)システムは、最適化アルゴリズムと自動化技術を駆使して高品質な電力供給を維持します。こうした技術によって電力系統の大規模化・複雑化に対応し、エネルギーシステムの信頼性を確保できると期待しています。
伊藤:
HVDCは大容量電力の長距離・高効率送電を担う重要な技術ですが、再エネが主要電源となる中で、それ以外にも求められる役割はあるのでしょうか。
Salge:
HVDCは、有効電力の正確かつ高速な制御に加え、無効電力の供給も可能であり、STATCOM(Static Synchronous Compensator:静止型同期補償装置)と同様、連携点ごとの電力系統の安定性向上にも貢献します。半導体スイッチング素子、機器設計、システム構成といった基盤技術の進歩によってHVDCシステムの小型化が進み、設置スペースに限りのあるデータセンターや新たな産業拠点、大都市などにおいて、超小型HVDC送電システムの導入が期待されます。
伊藤:
新技術を系統に導入するうえで、系統運用者との連携の他に必要な要素はありますか。
Salge:
市場メカニズムと同様に、投資インセンティブと政策・制度的枠組みが重要です。火力発電などの回転機から、蓄電を組み合わせたインバータ方式へと発電が移行するにつれ、系統蓄電は系統安定性の維持に重要な要素として、ますます重要視されるようになります。
ところが国によっては、系統運用者が自社の蓄電容量を構築する自由度が制限されており、エネルギー取引業者になることを認められないケースがあります。将来にわたって信頼性の高い電力システムを維持するには、緊急事態に備えて予備容量を確保する必要性を十分に認識するなど、市場メカニズムと系統の技術的・物理的な特性を適切に組み合わせたビジネスモデルやインセンティブ、規制・制度が必要です。
※2)回転発電機のように系統電圧を形成できる制御ソフトウェアを搭載したインバータ。