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一人ひとりの特性や障がいを武器に。独自の視点を『社会の価値』につなげていく

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2026.05.19

伊藤 芳浩

キーワード:

デジタルシステム&サービス, 新卒入社

開発部門やデジタルマーケティング部門で活躍し、現在は障がい者ERG(Employee Resource Group)を牽引する伊藤 芳浩は、生まれつききこえないという特性があります。多様な人財が活躍する社会をめざす伊藤のキャリアや活動を、日立製作所(以下、日立)の制度や文化はどのように後押ししたのか。その軌跡に迫ります。

きこえる世界・きこえない世界を行き来する経験が、情報アクセシビリティを考える原点に


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生まれつきろう者である伊藤は、幼少期から「物事を突き詰めること」を好む少年でした。読書に没頭し、小学校で図書委員長を務める一方、中高ではバスケットボールに打ち込み、コートの上で対等に戦う喜びを分かち合いました。

 

普通学校に通っていた伊藤は、当時、相手の口の動きを読み取る口話というコミュニケーション手法を取っていましたが、級友たちとの会話にどこか「ズレ」を感じ、もどかしい気持ちがあったと言います。転機が訪れたのは、大学入学後でした。

「自分と同じようなきこえない・きこえにくい学生たちと出会い、手話でコミュニケーションを取る姿に衝撃を受けたんです。これまで口話で受け取っていた情報がいかに少なく不正確だったか、手話では100%に近い情報を相手とやり取りできることを知り、本当に驚きました。

そこから手話を学び始め、やがて日本手話が私の第一言語となりました。手話と口話、きこえる世界ときこえない世界──この『2つの世界を行き来する経験』こそが、情報アクセシビリティを考えるようになった原点です」

大学では生物物理を専攻し、「物事の本質的な構造や仕組みを捉える」という視点を身につけた伊藤。学業以外で注力したのが、ボランティアなどの課外活動でした。

「1つは、車椅子ユーザーが利用する施設でのボランティアです。街なかにあるバリアをなくそうと活動していたのですが、車椅子の方たちは皆とても積極的にデモや要望活動を行い、お困り事を言語化されていて、多くの刺激を受けました。

もう1つは、きこえない・きこえにくい学生が集まる団体に所属し、3年生の時には全国の代表も務めました。ここでは、きこえない・きこえにくいことによる課題や悩み──講義でしっかり情報を得られない、友達がなかなかできず孤独を感じる、などについて議論を重ねました。私たちの困り事を、個人の問題ではなく『構造の問題』として捉えるようになったのも、この頃ですね」

充実した大学生活を送っていた伊藤が、就職活動の軸としたのは「仕事を通じて社会にどう貢献できるか」。技術の力で社会課題の解決に貢献する仕事がしたいという想いが、日立との出会いにつながります。

「入社の決め手となったのは、当時見た新聞の一面広告でした。日立の社員たちの写真がずらりと並び、一人ひとりがインタビューに答えていたのですが、その中には真面目な人もいれば、個性的な人もいました。

今で言う『多様性』が溢れた会社で、私たちのようなマイノリティも受け入れる雰囲気を感じたんです。さらに、技術の力で社会課題の解決に貢献し、社会を変えていこうとする姿勢に共感し、この会社で働こうと決意しました」

ソフトウェアエンジニアからマーケターへ。挑戦を支えた「どうすればできるか」を考える文化


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1993年に日立に入社した伊藤。入社式で、早くも日立の多様性を受け入れる風土を体感し、感動を覚えたと振り返ります。

「入社式の会場に入ると、そこに手話通訳者がいたんです。同期には私のほかにもきこえない・きこえにくい社員が2人いたので、3人で大喜びしましたね。おかげで社長の祝辞などもしっかり理解でき、『これからこの会社で頑張ろう』という気持ちがいっそう強くなりました。

実は、同じ職場にろう者の先輩が何人かいて、彼らが人事部と交渉して研修や行事などに手話通訳者をつけてくれていたんです。これまでたくさんの先輩方が道を整えてくれたおかげで、私たちの働く環境が整っているのだと実感した出来事でしたね」

入社後、伊藤はソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。周囲とのコミュニケーションにおいては、さまざまな試行錯誤をしながら、情報をキャッチアップしていきました。

「私の指導員を担当してくれたのは、大学時代にろう者の同級生がいた方でした。手話はできませんが、筆談やチャットを使ってやり取りし、新しいコミュニケーションツールが出ると積極的に試させてくれました。日立の『失敗してもいいから、とにかくやってみよう』という文化のもと、周囲に支えられながら成長してきたと思います」

そして、ソフトウェアエンジニアとして15年ほど経験を積んだ頃、伊藤の中に1つの想いが芽生えます。

「私はもともと生産技術──とくに、どうすれば効率的に開発ができるか、生産性を上げられるか、という部分に興味がありました。他社の勉強会などにも参加して情報収集をする中で、MOT(技術経営)という考え方やクレイトン・クリステンセン教授のイノベーション理論に深く共感。そこからマーケティングにも興味を持ち始め、『人と向き合う仕事がしたい』と思うようになったんです」

その想いを上司に伝え、異動を果たした伊藤。現在は、AIを搭載した製品やサービスのデジタルマーケティングを担当しています。

「私の仕事は、マーケティング活動の『エンジン』となる仕組み(お客さま情報のデータの流れや運用ルール)を設計・管理することです。

例えば、オンラインセミナーやメール配信といった一つひとつの施策を『点』で終わらせず『線』としてつなぎ、お客さまの情報を正確に記録・整理して、営業部門にスムーズに引き継ぐまでの一連の流れを構築しています。いわば、マーケティング全体の効果を最大化するための『土台』をつくる仕事です」

ソフトウェアエンジニアからマーケターへ。伊藤のキャリアチェンジを後押ししたのは、日立の充実した研修制度と、新たな挑戦を応援してくれる風土でした。

「もっとも感謝しているのは、異動に向けてマーケティング業務に必要な研修を受講する際、手話通訳をつけてくれたことです。これまで専門外だった領域を学ぶ上で、これは大きな支えとなりましたし、キャリアチェンジを諦めなくていいんだと思えました。環境が整えば、可能性は広がる──そのことを自分自身で体感できましたね」

通訳以外の場面でも、日立にはさまざまな改善に取り組む姿勢がある、と伊藤は語ります。

「社内イベントの映像に字幕をつけたり、ビジネスチャットなどテキストコミュニケーションツールを整備したり。とくに印象的だったのは、電話リレーサービス(ろう者と聞こえる人の電話でのやり取りを、オペレーターが手話や文字でリアルタイムに通訳する公共インフラ)導入時のことです。

社内では前例のない取り組みで、まさにゼロからの手探りでした。会社の管理外である外部のオペレーターを介するため、セキュリティや情報管理のルールをどうクリアするかなど、課題は山積みでした。

しかし、議論の出発点が『難しい』ではなく『どうすればできるか』であり、関係部門が前向きに具体策を一緒に探ってくれました。『配慮していただいている』というより、『仕組みを一緒に設計している』という感覚に近く、だからこそ安心して改善提案ができるのだと思います」

ERG活動を通じて再確認した、日立という組織の魅力


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昨今日立では、就業時間内のERG(Employee Resource Group)活動が認められ、外国籍を持つ社員のグループ、LGBTQIA+について学ぶグループなどさまざまなERGが誕生。

2022年、伊藤は障がい者のERGを立ち上げ、現在もリーダーを務めています。

「実は私は、日立で働くかたわら、NPO法人インフォメーションギャップバスターの理事長を務め、『誰もが対等にコミュニケーションできる社会』をめざして啓発活動を続けています。社外で取り組んできたことを、今度は社内の後輩たちのために生かしたい。私たちが経験した苦労を少しでも減らし、後輩たちが長くこの会社で働けるようにしたい。そのために私がもうひと肌脱ごう、という決意でERGをスタートしました」

ERGの活動成果として、伊藤がとくに強調しているのが、きこえない・きこえにくい社員と、共に働く上司や同僚に向けた「一緒に働くためのコミュニケーションガイド」です。このガイドの作成にあたっては、きこえない・きこえにくい当事者はもちろん、その上司や同僚など、延べ150名以上へのアンケートを通じて、現場で実際に起きている悩みや工夫を丁寧に集めました。

特徴的なのは、当事者自身が「自分のきこえ方」や「必要な配慮」を整理し、周囲に伝えやすくするためのセルフアドボカシー用シートをガイドの中に組み込んだ点です。

「入社後に、『どう伝えればいいかわからない』『周囲もどう関わればいいか迷う』という状態にならないように、早い段階から共通の考え方やツールを持って対話できるようにしています。このガイドは、つくって終わりではなく、新入社員や異動者の受け入れ時、日常業務の中で自然に活用されることをめざし、現場の声をもとに継続的にアップデートしていく予定です。さらに、このガイドで得られた知見を活かし、さまざまな特性を持つ社員が活躍できる環境づくりをめざして横展開していく予定です。

私たちは、きこえない・きこえにくい社員への理解や現場での実践知を共有し、それを職場や人につないでいくことで、入社後も一人ひとりが自分らしい成長や働き方を描いていけるような、きっかけをつくっていきたいと考えています」

また日立には、きこえない・きこえにくい社員が主体となって企画・運営している「手話案内サービス」という取り組みがあります。年に一度開催される「日立ソーシャルイノベーションフォーラム」では、全国から数十名のきこえない・きこえにくい社員が集まり、会場に展示されている日立グループの製品やサービスを、来場者に向けて手話で紹介しています。

「会場に並ぶ製品やサービスは、自分の所属部署のものとは限らないため、フォーラム当日までにその背景や特長をきちんと理解することが欠かせません。私たちは事前に何度も勉強会を開き、製品を担当するきこえる社員からレクチャーを受けながら、『この内容を手話でどう表現すれば、本質が伝わるか』を仲間と徹底的に話し合い、練習を重ねます。

当日は、普段お客さまと直接やり取りする機会が少ない私たちにとって、非常に貴重な実践の場になります。製品やサービスを自分の言葉である手話で説明し、その反応を直接受け取ることで、説明する力が自然と磨かれていきます。さらに、その成果を上司や職場に共有する報告会でのプレゼンテーション能力や、伝わる資料を作成する力が鍛えられることも、大きなやりがいの一つです。

この手話案内サービスは、会社の公式なダイバーシティ推進活動として位置づけられ、勉強会の開催なども業務の一環として行われています。また、単なる情報保障にとどまらず、きこえない・きこえにくい社員が自ら価値を生み出し、社会とつながる役割を担えることを実感できる場であり、日立ならではの『多様性を力に変える』取り組みだと感じています」

伊藤がこうしたERG活動を通じてめざすのは、障がいを特別なものとせず、日立という組織の中に自然に組み込まれた状態をつくること。合理的配慮が「例外的な対応」ではなく、組織の標準として機能する状態です。

「私たち一人ひとりの特性や障がいを武器として、その人ならではの意見や視点を『社会の価値』につなげたい。また、経営者たちが『障がい者も組織になくてはならない人財』として捉える会社にしたいと考えています」

そして伊藤は、ERG活動に取り組む中で、日立という会社の魅力を再確認したと言います。

「日立ほどの大きな組織の中で活動するからこそ、1つの取り組みが多くの人の目や耳に届き、制度や仕組みの変化につながるのだと感じています。企業の中で仕組みを変え、その知見を社会に還元する。そして、社会で得た視点を再び企業に持ち込む──そんな循環を生み出せる場であることが、日立の大きな魅力だと思います。

また、ERG活動を応援する文化が根づいていることも、私の背中を押してくれます。『これをやってみたい』と提案すると、『まずは話を聞かせて』と言ってくれる上司や同僚がいますし、資金・時間・人財というリソースをサポートしてくれます。

私が会社員とNPOの理事長を兼務していることを周囲に話すと、『どうやって両立しているの?』と驚かれますが、在宅ワークや半休などをうまく活用し、どちらの仕事もしっかりこなせています。柔軟に働ける制度と、社員のやりたいことを応援する風土に感謝したいですね」

構造や仕組みを変えて、より多くの人に恩恵を。共創できる仲間と挑戦を続ける


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日立で30年以上のキャリアを重ねてきた伊藤。今後の展望を次のように語ります。

「業務面では、情報設計の専門性をさらに高め、データと仕組みの力で事業成長に貢献していきたいと考えています。この領域はまだ発展途上で、日本国内での実践知を積み上げていく余地が大きいので、その最前線にいられることを楽しみたいですね。

ERGの活動面では、情報アクセシビリティを『特別な配慮』から『標準』へ変えていくことが目標です。日立の中での実践を積み重ね、その知見をNPO活動を通じて社会に還元していく──企業と社会をつなぐ実践者として、その役割を果たし続けたいと思っています」

そんな伊藤に「日立で活躍するために必要なこと」を尋ねると、3つのポイントを挙げました。

「1つめは、違和感を放置せず、もやもやを感じたら言語化し、上司や人事、メンターに相談すること。なぜこの仕組みなのか、本当にこれが最適なのか、別の観点はないかと問い続ける姿勢が、組織の中で活躍するための基盤になると思います。

2つめは、自分の立場を強みとして活かすこと。例えばろう者は、『情報が届かない側から社会を見る視点』を持っている人、とも言えますよね。マイノリティの経験は、マジョリティが見落としがちな課題に気づくことができ、それは組織や事業にとって確かな価値になります。

3つめは、構造で考えること。組織や社会の中にあるバリアは、個人の努力で乗り越えられるものではないので、『仕組みをどう変えれば全体が良くなるか』という視点を持つことが大切です。根本にある仕組み全体を変えることで、より多くの人に恩恵が届く──この発想は、開発でもマーケティングでもERG活動でも、常に私の行動の軸になっています」

最後に伊藤は、採用候補者、とくに障がいがある方へメッセージを贈ります。

「就職や転職を考える時、『この会社でやっていけるだろうか?』と不安を感じるのは自然なことであり、私も入社前は同じ気持ちでした。でも、日立には『どうすればできるか』を一緒に考えてくれる人がいて、各種制度が整っているだけでなく、その制度を皆が使いやすいようにしようと考えてくれる人もいます。

障がいがあることはマイナスではなく、社会を見る『別の視点』を持っていることであり、その視点は、組織の力になります。きこえない・きこえにくい当事者が組織にいるという、その存在自体が『リプレゼンテーション(当事者の存在が組織の課題を可視化すること)』となり、マジョリティが見過ごしがちな課題が浮かび上がってくるのです。

だからこそこの会社でいろいろなことにチャレンジし、後輩たちのためのパイオニアになってほしい。日立には多くの事業部門があり、多様な視点が集まってこそ、より良いものがつくれると信じています」

※ 記載内容は2026年2月時点のものです


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